第12章 Master(先生はジェイド先輩)
気分がいい時は三ツ星シェフ顔負けの腕前なのに、気分が乗らないと消し炭を作ってしまうフロイドシェフ。
なので、ユウはウソにならないくらいの本音で、フロイドの気分を上げる事にコミットした。
「先輩今日も男前~!」「すごい!服着てる!歩いてる!肺呼吸してる!それだけで先輩素敵です」とウソにならない本音で、褒めて褒めて褒め殺した。
そうすると、フロイドの方も
「えぇ、ホントぉ~?」「そうかなっ~?オレなんでもできちゃうからさっ。ほら、天才肌だしぃ」と顔を赤くして、腕をまくり始めるのだった。かわゆい女の子に褒められて嬉しくない男子はいない。
そのおかげかユウがシフトに入ると、なぜか周りのバイトスタッフから泣いて感謝されることが増え…
フロイドと同じように意識せず褒めたり、感謝していると、いつの間にかモストロ・ラウンジの天使と呼ばれていた。人魚って褒められるの弱いのかな…。
「ユウさん。オーダーお願いします。3・4・7番のドリンクはそのまま運んで下さい。6・9番はチェックです。あ、失礼しました。3・9番です」
「かしこまりました。4・7番ドリンクと、3・9番チェックですね」
「………はい」
ジェイドが意地悪いオーダーを早口で伝えても、なんなくこなしていく。
彼女は宣言通り、見返す為に人知れず努力しているようで普通のスタッフよりも覚えが早い。
しかもあのフロイドを怖がるどころか、今や彼女の存在があるおかげで、フロイドの気分は上がりっぱなし、売り上げもうなぎ登りだ。これにはアズールも大喜び。
彼女へ半強制的とはいえ、バイトに勧誘したジェイドには、活躍し始める彼女を誇らしく思う一方で、不満も抱えていた。
「…………僕には褒めて下さらないんですね」
拗ねていた。
血を分けた片割れのフロイドは、これ見よがしに自慢してきてそろそろ夕食にキノコを混ぜて静かにさせてやろうか…とか脳内でイメージトレーニングを始めるほどに。
眠りにつく時にさえ、「絶対小エビちゃん、オレのこと好きだわ」「今日もフロイド先輩カッコイイ~って言われちゃった♡」とウハウハな顔を見ると、持っていたテラリウムにミシッ…とヒビが入った。
彼らは気づいていないが、キッチンスタッフは全員フロイドと同じようなことを常時言っている。小エビ効果である。
