第12章 Master(先生はジェイド先輩)
「おはようございます。
ユウさん、グリム君」
「おはようございます、ジェイド先輩」
「ふなぁ」
あの契約を結んだ日から、
ジェイド先輩は毎朝同じ時間にオンボロ寮に迎えに来る。
本人は私の事を観察したいと言ってきたが、
特別普段の先輩とのやり取りで何か要求されることもなかった。
むしろ勉強を教えてもらったり、
モストロ・ラウンジのバイトでつながりが深くなったアズール先輩やフロイド先輩も面倒を見てくれるようになり、どちらかというと私の方が得しているようだ。(フロイド先輩はおもちゃ感覚かもしれないが)
だが、この不思議な関係のおかげで
ジェイド先輩とほぼ毎日顔を合わせることになる。
◆
ー学園 運動場
「今日は、女性のユウさんでも
最低限身を守れる護身術を習得して頂きます」
「はい。よろしくお願いします」
「おや。最近やけに素直ですね」
「むやみに先輩を怖がるのを、
やめることにしたんです」
「……ほう」
からかうような、見透かすような、
笑い混じりの眼差しはやっぱり苦手だ。
でも…
(目を逸らしていたら、いつまで経っても
やられっぱなしのままだ…!)
「ジェイド先輩に教わったことを
しっかり身に着けて、
いつか見返してみせます!」
彼からみたら小さい生き物が、
一生懸命威嚇している姿はなんとも可愛く映った。
「ふふっ。楽しみにしてます」
◆
ーモストロ・ラウンジ キッチン
「監督生ちゃーん!ドリンク3番・6番のいけるー?」
「もうできてまーす!
運び終わったら1番さんオーダー待ちなので、
お願いしてもいいですか?
あっフロイド先輩。
またエプロンの紐取れてる!もうっ」
「えっー。今フライパンガシガシやってっから
小エビちゃんぎゅーってして?」
「はあい」
わざと細身な彼の体を締め付けるように
ギュッと結びなおしてあげた。
「ちょっ!笑 小エビ、絞めすぎぃ!」
「先輩のスタイルが良いから、つい。
今日もかっこいいです。
あ、オーダーここに貼りまぁす~」
キッチンの仕事を初めてすぐに、
料理に関してはフロイドの気分が命だと学んだ。