第11章 Prey (観察対象は監督生さん)
「そう身構えないで。
僕の方まで緊張してくるでしょう?」
「バレバレな嘘をつくのは、やめてください。
ジェイド先輩…」
VIPルームで
ジェイドが淹れた紅茶を頂くユウ。
この人と二人きりになると、先ほどの和やかな空気が一変して身構えてしまう。
そろそろ開店時間なので呼んできてほしいとアズール先輩に頼まれて、お使いが終わったらそのままオンボロ寮に帰るつもりだったのに。
口八丁手八丁であっという間に
部屋に引きずり込こまれた。
「ところで、ユウさん。
一年生は明日
魔法史の小テストだったはずですが、
予習はお済みですか?」
「あっ……。
それは、今から帰って勉強する予定です」
先ほどの着せ替え人形の件で
すっかり頭から抜けていたのは、否めない。
「よろしければ、僕がお教えしましょうか?
ああ…対価は同時に頂きますのでお代は結構ですよ」
対価。つまり私を監視する名目で
勉強を指南するということだろうか。
(特別な力なんてないって何度も言ってるのに、なんで信じてくれないんだろう…。まあ、この世界の知識を教えてくれるのは、ありがたいことではあるんだけど…)
問題は先生があまりにも物騒な
ジェイド先輩ということだ。
(人の考えはバンバン見抜くのに…。
自分の考えをちっとも相手に読ませない。
それに…)
彼がためらいなく獣人の生徒を倒した
あの数秒を、私は生涯忘れられないだろう…。
「お礼は結構」と言った時、
ジェイド先輩はとても厳しい目をしていた。
(この人の読めないお腹の底には、
途方もない何かが隠されてる気がする…)
「考えごとはお済ですか?
気が抜けた表情を改めて。始めましょうか」
「っ……はい。お願いしまう」
結局ジェイド先輩に教えてもらう事にした。
半分流れされたところがあるが…。
最近、この人に流されてばっかりだなぁ…と
ぼんやり考えながら
鞄から勉強道具を取り出した。
「!…そういえば、ラウンジの仕事はいいんですか?」
「ええ。混んできたら
フロイドが呼びにくるでしょう。
それまでの間は、貴女と一緒に。…ね」
「はあ」
人差し指でシーっと微笑む彼の色っぽい仕草を見て、照れ隠しで前髪をくるんとつまんだ。