第11章 Prey (観察対象は監督生さん)
「そんなこと言ってないし!聞いてないです!」
「おや、聞いてた話と違いますね。
まあ、細かい事はいいじゃありませんか。
貴女も定期的に収入が入った方がいいでしょう」
「……そうですけど」
「ユウさん。バイトで不安なことがあれば、
全て僕がサポートしますので、ご安心を。
それに…貴女がシフトに入ってくれた方が、
何かと都合がいいので。お願いできますか?」
「……(絶対犯人はジェイド先輩だ)」
ジェイド先輩のお願いは、
有無を言わさぬ"お願い"だ。
拒否権がないユウは拗ねて、ぷくっとほっぺを膨らませる。すると「フグのような顔してもダメですよ」と諭される。理不尽!
「分かりました!やりますよ!
でも、週2,3回くらいしか入れませんからね」
「十分です。
ユウさんの指導は僕が担当しますね」
「オレも小エビちゃんにキッチン教えてあげる~♡」
「ユウさんはホール担当ですよ。フロイド」
「は?ジェイドばっかずるくね?
小エビちゃんはキッチンで、
オレの助手やんの!」
お互いがお互いの胸ぐらをガシッと鷲掴む。
ほっとけば、怪獣大戦争2が始まりそうだ。
アズールは眼鏡をクイっと上げて
(貴女、なんとかしなさい!)とテレパシーでも使ったかのようにユウに目配せした。
そんなこと言われても…!と内心汗だくだが
このままこの兄弟に暴れられると、命が危ない。
「あ、あの…私、
料理するの好きなのでキッチンがいいです」
小エビは持てるだけの勇気を出して、
小さく挙手した。
その瞬間…
フロイドは「シャァッッーー!!!」と大絶叫。
テーブルを足で踏みつけ、
天に拳を掲げガッツポーズをした。
正反対にジェイドは「な、なぜ…!そんなはずは…」と狼狽し、頭を壁に打ち付ける。
何度かそれを繰り返し、「そうだ。僕は一人っ子でした。キッチンも僕が担当しますね」と胸元に手を突っ込み、何か光る物(ブツ)を取り出そうとしている。
その光景がもう地獄絵図だった。
今度はユウが、アズールに向かって
(先輩、なんとかして!)と涙目で訴えた。