第10章 The Little Mermaid(陸の人魚姫)
「では、放課後お迎えに上がります」
「い、いいですっっ。
私がジェイド先輩のクラスまで行きます。
教室には絶対にこないでくださいね!
ぜったい!」
半場叫ぶように言いたいことを早口でまくし立て、教室のドアをガツンと閉めた。クラスメイトからの視線に耐えるのも限界だった。
「……はあ」
ユウは、今日何十回目のため息をまた重ねた。
◆
「はて…」
嫌われてしまったのでしょうか…。
顔から火が出そうな程、真っ赤に染めた彼女は少し涙目だった。会話した印象からは嫌いというより、恥ずかしいといった感情だったと思うが。
ジェイドはおとなしく
放課後、自分の教室で彼女を待つことを決めた。
自身もクラスに向かおうと踵を返すと、普段彼女にべったりな二人組も自分と同じように締め出されていた。
その間抜けな顔が少し面白くて、
微かに吐息がこぼれる。
ジェイドと目が合うと、ビクッ…と体を揺らし
「ししし失礼しまっス!」とデュースが扉に特攻して消えた。
エースの方も無言でその後を追うが、
何か言いたげな…
明らかに敵意を込めてジェイドを睨んできたので
それはそれは面白い事になると、また胸が躍った。
帰り道。
観察対象のユウの事を脳内で思い起こし
これからの行動を計画していくと、
想像以上の面白さに
自然と口角が上がっていった。
◆
「ねーねージェイド。
何一人で楽しいこと企んでんの?
オレにも教えてよぉ」
ジェイドが自分のクラスに入ると、
自分の席には片割れが座っていた。
なるほど。
先ほどすれ違ったリドルが突然真っ赤な顔で
怒鳴ってきた理由が分かった。
「ジェイド!フロイドをどうにかしろとあれ程言っただろ!」と突如叫ばれ、あっという間に見えなくなった。
ルール厳守の彼が廊下を走るなんて珍しい事もあるものだ…と他人事に聞き流したが。
「ええ、フロイド。
モストロ・ラウンジのバイトに
ユウさんをお誘いしようかと思いまして」
そう答えると、フロイドのお目目がぱちっと開き
背景に、三ツ星がキッラキラと輝くように上機嫌になった。