第3章 Daily life(監督生といつもの日常)
こいつだけには負けたくない…とお互いに顔を合わせるエースとデュースだったが、今だけは同じ心境だった。
意中の女の子と距離が近すぎるのも問題である。
彼女をだれよりも近くで守りたいが、異性として見てほしいという欲求と葛藤する二人は、知らず知らずのうちに同じタイミングでため息を吐いて、何も知らないユウの問いかけに返事をした。
「「……………はぁーい(はーいなんだゾ!)」」
意気消沈する二人とは裏腹に、グリムの声はご機嫌だ。
(…食べ物のことになると、ホントにこの狸は。)
と内心毒気づくエースだったが、
監督生ことユウが作る料理は家庭的で上手いし、何より女子の手料理を逃がすほど、男子高校生として廃れていない。
「お菓子♪お菓子♪」としっぽをふりながら機嫌のいいグリムと「もう。ちゃんと歯磨きして寝なきゃダメだからね!」とぷんすと怒るユウを見る。
この治安がクソみたいに悪いNRCにおいて、
監督生であるユウはどうしても純粋すぎる。
てか、人が良すぎるというか…。
いつの日かだまされて詐欺に合わないかホントに心配だ。
人のことは言えないが、イソギンチャクにされた自分たちの為にオクタヴィネルのアズールと契約したと聞いた時は、心の底から肝を冷やした。
お人好しなユウと、
能天気なグリムを見ていると
(しょーがねーから、オレが守ってやるか…)と不思議に思ってしまう。
その時ガチャリ…と音がした。
音の方向を見ると、ユウが色とりどりのポップコーンを両手に抱える姿が見えた。
「ポップコーン作ってみた!」
「ぽっぷこーん?」
「すごいな!どんな味があるんだ?」
よだれを垂らしながら、くんくんとニオイを嗅ぎ、はじめての食べ物に目を輝かせるグリム。
もちろん夕食は食べたが、小腹がすいたデュースも駆け寄ってユウの隣に立った。
「えっとね、塩とキャラメルと…」
デュースと楽しそうに話していると思ったら、
ぼーっとその様子を見ている俺に
ニコッと頬んでユウが振り向いた。
「エースはどれにするのー?こっちおいで」
彼女の隣にいるのが、
いつの間に当たり前になっていて。
…それに気づいた瞬間にどこか心がむずがゆい。