第10章 The Little Mermaid(陸の人魚姫)
カーテンの隙間からこぼれる朝の陽ざしと、ジリリリッ…と止めてくれる主人を待つ目覚まし時計の音で目が覚めた。
「ん~~~」
まだ眠い眼を擦る。
昨日の夢のような時間のおかげで、朝からなんだか気分が良い。ユウはふわふわした意識の中で、毛布から這い出て、まだぷうぷうと鼻提灯を浮かべているグリムを抱き枕のように抱えて、キッチンへ向かった。
こうして寝ぼけてでも無理やり体を動かさないと、二度寝してしまうのだ。
階段の下からコーヒー豆のいい香りが、鼻をくすぐる。
「早く起きないと、オレ達みたいに
永遠に眠っちゃうよ~。ヒヒっ」
「ないすごーすとじょーくっ…あちっ」
キッチンでは
ゴースト達が朝食の準備をしてくれていた。
家事掃除はグリムと分担とはいえ、
料理の負担はユウが大きい。
朝からこうして手伝ってくれる彼らの存在は、心の助けだ。
「お嬢ちゃん、ミルク入れようか?」
「……ブラックでも飲めるもん」
朝一番のオンボロ寮のコーヒーは最高だ。
眠気覚ましも兼ね、大人ぶって
いつもブラックをお願いするが
角砂糖を結局3つ入れる羽目になる。
まだ意識がぼんやりする中で、こうしてゴースト達が作ってくれたコーヒーとトーストを頬張る所から、ユウの朝は始める。
BGMは「グリ坊、朝だよ!起きて」と隣で眠るグリムを起こそうと格闘するゴースト達の声だ。
「「「いってらっしゃいー!」」」
「「いってきまーす!/なんだゾ!」」
美味しい朝食へのお礼を伝え、
制服に着替えて家を出る。
手を振って見送ってくれる彼らを見ると、母親が生きていたらああやって見送ってくれたのかな…と胸が熱くなるのはナイショだ。
だが、この日だけはいつもと違った。
「ん?」
扉の前に黒い影が覆っている。
「おはようございます。
お迎えに上がりました。ユウさん」
扉から現れたのは、長身の男。
ジェイド・リーチだった。
「「きゃ゛ああああー!」」
予期せぬウツボの襲来に…。
この日、ユウとグリムは朝一番とは思えない程
大音量で叫び声を上げたのだった。