第10章 The Little Mermaid(陸の人魚姫)
いつも使っているキッチンとは思えない程、食器たちが楽しく歌っている。料理を作りながら、給仕をしながら。
そんな光景を見ると、元の世界の癖でいつも「魔法みたい!」と言ってしまう。
ユウは、目の前を通り過ぎていく料理を一口つまむと信じられないほど美味しかった。
まるでパーティーのように、
豪華で賑やかに変わった食卓。
キャンドルたちの手品や、踊るマグカップ。
心もときめく食器のダンス。
『どうぞ、お好きなだけ。
お召し上がりのほど~♪』
『食べすぎにはご用心♪』とユウが座っていた椅子まで歌い出す。この美味しそうなご馳走たちを目にしたら、グリムが凄いことになってたことだろう。
思わず「ふふっ」とユウは笑うと、
指揮者のように指を振っていた学園長もニッコリと笑った。
「魔法って素敵…!」
夢のように楽しいキャンドル・ライトは
生まれて初めてだ。
ユウは、
この夜のことをきっと生涯忘れないと思った。
魔法は、人を不幸にも出来るが
こうやって人を幸せも出来るんだ。
と、何故か胸が温かくなった。
学園長との二人だけの晩餐会は
とても素敵な夜となった。
◆
「学園長先生。とっても素敵な夜をありがとう。
私きっと、一生忘れないわ」
「喜んでもらえたなら、いいんですよ。
さあ…今日はもうおやすみなさい」
「はあい」
ベットに入る前に、思いっきり先生に抱き着いて
ぎゅっーと締めた。
胸いっぱいに香るムスクは、
ダンディな大人の男性の匂いだった。
「仕方のない子ですねぇ…」
親ガラスは甘えたな雛鳥を
あやすように、黒々とした艶髪を撫でる。
この異世界の迷い子を気にかける内に
いつの間にか、目に入れても痛くない程に
可愛がっているのは否めない。
「おやすみなさい。sweetie (可愛い子)」
最後に前髪をそっと払ってあげる。
この雛鳥が健やかに育ちますように…と
願いを込めて。