第10章 The Little Mermaid(陸の人魚姫)
もう一人の保護者の登場に、
ユウは嬉しくなって扉を開けた。
夜の闇を纏うような漆黒の装いは、暗闇の中でもラメとスパンコールが上品に光っている。相変わらず目元にはカラスの嘴(くちばし)のような仮面をつけているが、見慣れると愛着が沸いてくるものだ。
「お邪魔しますよ。
それはそうと、ユウくん!
寝ていなきゃダメじゃありませんか!
心配して来てみれば、案の定…」
オンボロ寮に入ってきたかと思ったら、ユウをくるりと反対方向に回して、魔法で背中を押していく。
その間にも、指先を軽く動かすだけで
コートやハットが魔法で浮かび上がり、自分からラックにかかっていく。ユウはそんな些細なことでも、すごいなぁーとマジマジと学園長を見つめたのだった。
「あ~なんて優しいっ!私、教育者の鑑ですね」「ちゃんと夕食は召し上がったんですか?…え、これが夕食?冗談でしょう?」
ちまちまと話しながら
動くのがクロウリーの癖だ。
「お腹空いちゃって…。
でも料理を作る気力もなかったので…」
「ああ…なんて可哀想に。
でも大丈夫ですよ。
今夜は私と特別なディナーにしましょう」
そう言って、クロウリーは紳士的に椅子を引き
まるでレディをエスコートするようにユウを座らせた。ナプキンを首にかけようとするあたりは、まだ子供扱いだが。
彼がパチンッと指を鳴らすと、
部屋中にキャンドルの火がつき
食器棚からスプーンがひょこひょこと歩いてきた。
ユウの前にきて、ぴょこっとお辞儀をしたので
ユウも習って頭を下げた。
『愛しのマドモアゼル。
どうぞ、ごゆっくり』
「…っ喋った!」
スプーンが話したと思ったら、食器棚からお皿やコップたちが歌いながら、踊るように出てくる。