第10章 The Little Mermaid(陸の人魚姫)
あの後、ユウと契約したジェイドは
満足気に微笑み「お身体、ゆっくり休めて下さいね。
それではこれで失礼致します。…また、明日」
とあっさりオンボロ寮から出ていった。
一体何だったんだろうか…。
全てに脱力したユウは、
そのままベットに沈み込んでいった。
◆番外編 カラスと雛鳥
夜中にふと目を覚ましたら、いつの間にかユウの足元らへんにグリムが丸まって寝ていた。
上下に規則正しく揺れるお腹を見て、
そう言えば自分もお腹すいたなぁ…とやっとノロノロと動き始めた。キッチンに行くために、カーディガンを着て下の階段を下りる。
なにか食べれるものはないか…とゴソゴソと冷蔵庫を漁る。今から料理する気力はもうなかった。
ふと…お皿に見覚えのない食べ物が置いてある。
レーズンバターサンドだ。
冷蔵庫から取り出すと、『手を洗ってから食べるように』と魔法で文字が浮き出てきた。
「わぁっ…!」
キラキラと色とりどりの花火が小さくはじけ、その煙が小さな子犬になってユウのほっぺを舐めたり、肩をぐるぐると駆け回った。
最後に『Sweet dreams. xoxo(よい夢を。おやすみ)』という字にかわり、消えてしまった。こんな粋なことをしてくれる先生は一人しか思いつかない。
脳内でクルーウェル先生に感謝しながら、牛乳をグラスについでソファに座る。なんか今日はとっても疲れたから、ゆったりしながら食べたい気分だった。
すると、チャリンとオンボロ寮の古ぼけたチャイムが鳴った。ちなみに、普段チャイムを鳴らす礼儀正しい輩がいないので、久しぶりにその音を聞いた。
時刻は21時を回っている。
こんな時間に誰だろうか…と
のそのそと玄関まで歩く。
(まさか…ジェイド先輩?忘れ物かな?)
「…どなたですか?」
恐る恐る玄関越しに声をかけると、
夜中とは思えない程
明るい音声が返ってきた。
「監督生くん。夜分に失礼。
倒れたと聞いたので、様子を見に来ましたよ。
私、優しいので」
「学園長っ!」
これは珍しいお客様だった。