第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
(ん……)
ベットの中で目を覚ますと、真夜中だった。
(どうやってオンボロ寮に帰ってきたんだっけ…)
「おや、ようやくお目覚めですか。
随分とお寝坊さんですね」
枕元から低く潤った声がして、慌てて毛布をはねのける。
「っ、ジェイド先輩…」
「そう慌てずに。
まずはお飲み物でもいかがですか?」
「は、はい……」
差し出されたコップを言われるがまま傾けるうちに、記憶が蘇ってきた。
(そうだ、私。植物園で倒れたんだ……)
「あの…。授業は?」
「クルーウェル先生には僕の方から事情は伝えておきました。課題の締め切りは後日で結構だそうです。
それよりも、
貴女のことを大変心配なさっていましたよ。
『子犬が目覚めるまで、此処を一歩も動かない』と言い張って、帰って頂くのに一苦労でした」
「そうですか…。エペルも無事ですか?」
「ええ。リリアさんがいましたので
彼は大丈夫でしょう」
「……よかった」
(でしょう…なんだ。でも、本当によかった。
けど……
無事じゃない人も、いる)
「あの…。助けてくれて、ありが…」
「お礼は結構」
ジェイドの細長い指で唇を塞がれ、声が途切れた。
「っ、ジェイド先輩?」
「僕は力で相手をねじ伏せ、そうすることで貴女を守った。ですが、貴女はその現実に傷ついた。
割り切れないんでしょう?
なら、無理にお礼を言う必要はありません」
すぐに指は離れたけれど、ひんやりとして滑らかな感触が肌の上に残った。
(今のは忠告?それとも慰め……?
この人、本当に何を考えているかさっぱり分からない)
戸惑う私の手から、ジェイド先輩が空になったグラスを取り上げる。
「さて、ここからが本題です」
「な、何でしょうか?」
「異世界というものがどんな所か存じませんが、
貴女はずいぶんと恵まれた環境で育ったようだ。
この世の恐ろしい部分、汚い部分に、
まったく耐性がないと見える」
(それは…当然だ。
私は平和な現代で生まれ育ってきたんだから…)
瞬間ズキッと脳に電気が入ったような感覚が走ったが、すぐに収まった。ジェイドは気づかず言葉を続けた。