第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
コウモリVSウツボ(番外編)
「やりすぎではないか?」
その声は咎めるように頭上から降ってきた。
ひゅんと見事一回転して着地したのは
ミステリアスな美少年ーリリア・ヴァンルージュだった。
ジェイドは多少驚いたものの、
いつもの冷静沈着な態度は崩さなかった。
「リリアさんも御人が悪い。
最初から盗み見ていただなんて」
「ユウサンッ!
…ユウサンは大丈夫ですか?」
ジェイドが口元に手を添えて、リリアと対面していると転んでいたエペルが泥まみれのまま起き上がった。
突然意識を失くしたユウ。
今はジェイドの腕の中でスヤスヤと眠っている。
力がなくなった体が倒れないよう、両手でその体を横抱きにすると、想像以上にその軽くて、心配になってしまった。
「気絶してしまったようですが、
このまま介抱するのでご安心を。
彼女には聞きたいこともありますし…」
「ならば、わしが連れて行こう」
ピキッと血管がキレる音が鳴った。
「いいえ、結構です。
リリアさんの手を煩わせるワケに行きませんので。
失礼ですが、身長差的にも僕の方が適任かと」
「なに、魔法でヒョイと運べば問題ない。
それともなにか。
お主でないといけない理由があるのか?」
互いに無言だったが、
視線はバチバチと火花が散っている。
それを見たエペルは上級生同士の殺気に
背筋がゾクゾクと震えた。
「か弱い女子(おなご)に、
あのような暴力的な場面を見ていろとは
…ずいぶん酷い事をする。
お主は、王子様に到底向かんぞ」
「ええ、そうでしょう。
…別に、僕は彼女の王子様に
なりたいワケではないので。
では、失礼します」
そう言って、言葉とは正反対に彼女を大事そうに抱え、踵を返していった。
そんなウツボの背中を眺め、リリアはため息を吐く。
「行ってしもうたか…。
あやつは、なんと言えばいいのか。
不器用なのか、壊滅的に自分の気持ちに鈍いのか
どっちかじゃのう…。どちらも重症じゃ。
ユウも変な奴ばかりに好かれおって…。
これでは”推し”と
くっつかぬではないかァー!!」
「………推し?」
むろん推しとは、自分の息子のシルバーだったが
置いていかれたエペルが
きょとんと首をかしげるのだった。