第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
親父殿が遠くで悪巧みをする中、急に息子は背筋がゾクゾクと悪寒がした。「風邪か?」と隣のカリムが聞いてくるに対して「問題ない」と返事するのがやっとだった。閉話休題。
「ッ……この!」
リリアが思案していると、その間にユウの静止を振り切ってエペルが上級生に飛び掛かった。目くらましに砂を投げて、獣人特有のしっぽをひっぱった。
「痛ェッ!!調子に乗んなよ!!」
小さく小回りが利くエペルだったが、数には勝てず背後にいたもう一人の先輩にドンッと背中を殴られて、地面に倒れた。
「エペルッ!!」
ユウの悲鳴が上がり、すぐにエペルに駆け寄った。
大した怪我はなさそうだが、膝が擦りむいて血が出ている。そのを見た瞬間、頭に血が上り、エペルを庇うように前に立ちはだかった。
「もうやめてください!
それに、灯火の花だって蕾をつけてから花が咲くまで2、3年かかるんですよっ。
お金儲けの為に
大量に採っていいものじゃないんです!」
女に庇われてダサいと人間の不良なら馬鹿にしただろう。だが…獣人や人魚など一部の種族は雄よりも雌の方が強い。
見かけはか弱い人間の雌。
しかも魔法が使えない少女。
しかし、牙を剝きだして
自分達と対峙するその度胸に
弱肉強食であるサバナクローの血が騒いだ。
つまるところ、強い雌が好きなのだ。
この雌に自分達が支配出来るのか。
リーダーとして相応しいのか。
その力を見せてみろ…!
と言わんばかりに全員が飛び掛かった。
数が多すぎて
ユウは思わず目を瞑るー
「…!これはマズイっ」
様子を見守っていたリリアが動き出そうとする前に、飛び掛かった獣人の頭に物凄い速さで何かが当たった。
キャインっ!
子犬のような悲鳴を上げて、
一人が地面に倒れる。
同じくして地面に落ちてきたのは…
「……………教科書?」
ペタっ…と恐怖で腰が抜けて、地面にお尻をつけたユウが間抜けな声を上げた。
「嫌ですね…。
陸の獣は躾がなっていないようで」
そこには、鋭い歯をむき出しに笑う
不気味な人魚の姿があった。