第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
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その時リリアは実験着を着て、植物園に来ていた。彼もまた魔法薬学の実験に必要な薬草を調達しに来たのだ。
先ほどまで戯れていたシルバーと、からかうと何でも信じるセベクの反応が面白くてつい長居してしまった。
えーと、お目当ての薬草は…。
「返せ!」
ん……?
人間の声が聞こえてくる。
「ユウに返せっつってんべや!!」
だいぶ……気合の入ったやつが。
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何やら面倒ごとの予感がして、木の陰に隠れながら様子を伺うことにする。ほっておくことも出来るが「ユウ」という名前を聞いて、知らんぷりはできなかった。
(あの人間になにかあれば、
マレウスが放っておくまい…)
最近は夜な夜なオンボロ寮に出かけて行っては、満足そうに帰ってくる。主人の楽しみを邪魔する者は排除せねば…。
それに…
リリアにとっても、
ユウは可愛らしい後輩の一人だった。
可憐な花を汚す不届き者がいれば、
容赦はしない。
気配を消して近づくと、ガタイのいいサバナクローの生徒が複数人。ユウを騎士(ナイト)のように守っているのはエペル・フェルミエだった。
「きかねヤツばぶっ飛ばすぞ!!!」
「エペル!お願いだから落ち着いて…」
騎士にしては、だいぶ…。
荒っぽい口調だが、か弱き女子を守るその意気やよし。
「この花、俺らにも必要なんだよ。
1年坊だろ?後輩が先輩に貢献するのは当たり前だよな」
「先輩たちだって持ってるじゃないですか!
それに実験では、そんな数必要ないはずじゃ…」
「監督生ちゃんは、おバカちゃんだね~。
これは、売る用。
灯火の花の蜜は高く売れんの」
「次のテストで出ます~ギャハハ」と馬鹿にした獣人の声が響く。ユウの様子を伺うと、今にも飛び掛かりそうなエペルを抑えるので必死だ。彼女も学友を揉め事に巻き込みたくないようだった。
(あちゃー。
見事にタチの悪い不良に絡まれとる。
小柄で可愛い者の宿命かのう…。
ユウも器量が良い分、
これから先も変な虫がつくと思うと心配じゃあ~。
…あ、待てよ。
シルバーとくっつけば
必然的にユウはわしの娘!?
それめっちゃいい案じゃ!!)
パチンっと指を鳴らして
リリアは悪く微笑んだ。