第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
「!…初めて、
笑ってくださいましたね」
ジェイドの切れ目の眦(まなじり)が愛らしそうに緩む。
心なしか頬が桃色に染まっていた。
「えっ…。そう、ですか?」
自分ではどういう表情をしていたのか、
なんて全く意識していなかった。
ジェイド先輩の嬉しそうな顔を見てると、
心の中が、急に苦しくなった。
なんで、そんな顔するんだろう…。
自分でも分からない感情が溢れる。
小川に小石を投石した時のように、疑問が波紋を呼んで波を作る。確実にソレは大きく反響していく。
そんなわけない。
ユウはとっさにそう思った。
急にこの場から逃げたくなった。
なんでだろう。さっきまで普通に話していただけなのに。
私に向かって、そんな顔を見せないでほしい…・
「先輩。良かったら、まだ時間もありますし
キノコの様子、見てきて下さい。
他の材料全部揃えてもらっちゃったので、
灯火の花は私が持ってきますね!」
「あっ…ユウさん!」
そう言って有無を言わさず走り出した。
理解できない感情なんかに振り回されたくなかった。
◆
「あっ!エペル!」
「ユウサン!」
灯火の花の近くにいると、数名の生徒がいた。皆はじめは森の方に行くので、こちらにいるのは比較的優秀なペアが多い。
その中に1年マブとして仲良しのエペルの姿を見つける。手を振って、近くに寄った。
「課題の調子どう?」
「魔法薬学が得意なポムフィオーレの先輩とペアだったから、比較的はやく終わりそう…かな?
ユウサンはジェイド先輩とだよね。
…変なごどされでねが?」
綺麗なアクアブルーの瞳が心配そうに
のぞき込んできた。
こんなこと言うとエペルに怒られちゃうけど、
本当に美少年だなぁ…とユウはのんきに考えた。
1年マブの中でも
誰よりも男気があるのを知っていたので。
「今の所、大丈夫だよ。
やっぱり目立ってた?」
「…うん。
あのあと、フロイド先輩が「何見てんだよ」って数人絞めて、それにリドル先輩がキレて…。
まさに怪獣大戦争ってかんじ」
「うわぁーー」
リドル先輩には
今度お詫びしに行かなきゃいけないな。
エース達も巻き込んで、またマロンタルトでも作ろうか…と考えていると、パっと手の中の灯火の花が消えた。
「えっ!」