第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
材料は、植物園ですべて揃うわけではない。
近くの森や鉱山からの調達も含んだ授業だった。しかし、リドルやアズールのように予め優秀な生徒は、予習としてすでにある程度の材料を手元にストックしている。ジェイドも然りである。
これにはユウも、驚いて純粋に尊敬した。
何しろいつもペアを組むマブ達とは、図鑑を突き合わせてああでもない、こうでもないとウンウン唸る所から始めなければいけないからだ。
「常闇草、ニワヤナギ、二角獣の角の粉。
すごいっ!ほぼ全て揃ってる。
あとは、植物園にある灯火の花だけですね」
「ふふ、喜んでもらえて何よりです。
では参りましょうか」
歩き出すジェイドの耳には、キラキラと深海のように光る蒼いピアスが揺れている。
思わず美しい人魚に、ぽーっとしてしまい
悔しくて首を左右に振った。
◆
植物園の中にある薬草ゾーンの近くまで来た。ジェイド先輩は何やら気になるものがあるらしく、先ほどから会話の途中にチラチラとそちらの方を見ている。
「どうかされたんですか?」
「…!いえ。
実はあちらのスペースで
キノコの栽培をしてまして。
経過がどうなっているか
つい…気になってしまいました」
「………キノコ?」
「はい」
「あのジェイド先輩が?」
「はい」
「ご自分で栽培を……?」
「……なにかおかしいですか?」
「い、いえっ!
(普段物騒な先輩からは考えられない純粋な笑顔だ…!キノコの話題になっただけで、雰囲気が全然違う…)」
「物騒だなんて…。
これでも僕はいたいけな
17歳の男子高校生ですよ」
(っ…また心読まれた!)
「…キノコお好きなんですね」と諦め半分で呟くと、それはもう情熱的にキノコの素晴らしさについて語られた。
普段は冷静沈着、腹の底が見えないヤバイ方。死体を笑顔で蹴って歩くリーチ兄弟と悪名高いあの先輩が。
「初めて山の頂上に辿り着いた日のことは
一生忘れません」と拳を握り、話すその姿を見て…
「ふふっ」
ユウは、毒気を抜かれてしまった。
会えば意地悪。嫌味っぽい言葉。
そんなジェイドが苦手だと決めつけて、あまり関らないようにしていたユウだったが、趣味について熱く語る彼の一面は純粋でかわいいなと思った。