第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
「よ…よろしく、お願いします」
「ええ。貴女となら
それはそれは楽しい時間になるでしょう。
…色々とね」
(嫌な予感しかしない…!)
後悔先に立たずーこのことわざを、ユウはあとから噛みしめることになる。
◆
フンフンとまるで鼻歌でも歌い始めそうなジェイド先輩は、とてもご機嫌だ。
対して、その細長い腕に引きずられるに繋がれた私は、正直生きた心地がしなかった。
相棒の親分は、目を覚ますや否や
飛び起きてどこかに逃げていった。
魚の人睨みに負けるネコチャン。
くうう…裏切者め。
(神様仏様、どうか生きて帰れますように…)
「ユウさん、
祈りなど無意味だと、
先日教えて差し上げましたよね?」
(っ、また考えを見抜かれた。
やっぱりこの人、ちょっと怖い……)
「取って食いはしないとも
言ったはずですが。
僕とペアになったからと言って、
怖がる必要なんてないんですよ」
(何から何までバレバレだ…!)
「私の考えを読むのは、
やめてもらえますか…?」
「ユウさんこそ、考えをそのまま
顔に出すのをやめてはいかがです?」
(そんなに顔に出てるかな…?
ううん、ジェイド先輩の観察眼が
異様に鋭いんだ…)
ジェイド先輩は私に語りかけながら、最短ルートで材料の確保をする動きに余念がない。
薬草を扱う長い指先の動きは優雅で、色気さえ漂っている。
(まるで宝物を手入れしてるみたい…)
穴が開くほど見つめても、この人が何を考えているのかは読み取れそうになかった。
「それにしても意外でした。
貴女がフロイドではなく、僕を選ぶなんて…」
「普段の実践魔法が使えない分、授業の単位は私が担当なんです。だから、どうしても落とすわけにはいかなくて…。ジェイド先輩だったら安心ですし…」
「ほう。安心ですか…」
「だって…。
フロイド先輩のように気分で
授業をサボったりしないでしょう?」
「と、思うでしょう…?」
「不穏な切り返しはやめてくださいっ!」
「ふふっ。からかいすぎましたね。
植物園で採取が難しい材料は
こちらで用意しておりますので、
安心して頂いて結構ですよ」
「えっ!?本当ですか」