第8章 Nasty mermaid(意地悪な人魚)
よっぽど怖かったのか、フロイドの腕から逃れたグリムは、弾丸のようにユウの腕の中にうずくまった。
ブルブル震える背中をゆっくり撫でてあげる。
「ところで、ユウさん。
ペアはもうお決まりですか?
まだ決まっていないようであれば
ぜひ僕と、ご一緒にいかがですか?」
「いえ、あの、リドル先輩が…っ」
「えっー?
ジェイドばっかりずりぃ~。
小エビちゃん、オレと組もうよぉ。
それでぇ、飽きたらいっしょにサボろ♡」
「さぼるのはちょっと…」
「小エビちゃんも~、
ジェイドよりオレの方がいいよね?」
突如ユウの上半身に、フロイドが甘えるようにのしかかってきた。低い音程も相まってか、背筋がゾクリとするような脅し方だった。
「おやおや。ユウさんは
僕とご一緒するのが嫌なんですね。
悲しいです…。しくしく」
かたや背後から、かたや前方から
強烈な精神攻撃がユウに襲い掛かる。
1000HIT!2000HIT!
「お優しい貴女のことですから。
フロイドなんかに気を使わなくていいんですよ?
もちろん、僕を、選んでくれますよね」
「ハァ?うざぁ…。
フロイド先輩が一番ですって言ってみ?」
(ううう……どっちもヤダ…)
5000HIT!HPが残りわずか!
ついには二人とも真顔でユウを見つめる。
この顔は本気のやつです。あかんです。
絶対にユウが答えるまで逃がさないと、目が雄大に語ってくる。目が笑っていないジェイドと、ガチギレ寸前のフロイドを前にして逃げる勇気もないユウだった。
え、ウソ。グリムが白目剥いて気絶してる。
遠くからリドル先輩の「どけ!オフ・ウィズ・ユアヘッド!」と言う勇ましい声が聞こえてくるが、ユウの距離からは遠く感じた。
つまり、助けはこない。
ぴえん。
なぜ自分はこんな目にあうことが多いのか。生まれた星の下を恨みながら、せめてマトモな方を選ぶことにした。
「ジェ、ジェイド先輩…。
一緒にお願いしてもいいですか?」
恐る恐る震えた声で告げると、ジェイドはこれまで見たことがないくらい満面の笑みを浮かべ、片方のフロイドは「はぁ~~~~~?!」と叫んで盛大に地面に倒れた。