第6章 Rose prince (薔薇の王子様)
「夫婦仲が良くなる秘訣でもあれば、
ボクの両親にも教えてあげたい…」
寂しそうなリドル先輩の横顔を見ると、オーバーブロットした原因のお母様の存在がちらついてしまう。
私なんかが偉そうな事は言えないけど、リドル先輩は変わったと思う。人の気持ちを分かろうと努力している。
ハリネズミを心配する程、心根はきっと優しい人なんだ。
「私、小さい頃に両親が他界してしまって…
仲がどうとか…あまり覚えていないんですけど。
将来、リドル先輩が好きな人と結婚して
幸せになって、
ご両親にいっぱい教えてあげればいいと思います!
だって、今のリドル先輩は
人の気持ちがわかる、
とっても優しい人ですから」
ユウの言葉に、
スレートグレーの瞳がゆっくりと見開らかれていく。
「……本当にキミは不思議な子だね。
優しい人…なんて、初めて言われたよ」
「…そんなキミだから、ボクを変えてくれたのかな」と囁く声は風に攫われた。
見つめ合う二人は、薔薇の庭園で逢瀬をしている恋人たちのようにラブ・ロマンスが今から始まるような雰囲気だった。
だが、それを壊したのは悲しみの声だった。
「…………かぞく」
◆
その声の主を探すと、
先ほどのハリネズミの夫婦を眺めるグリムの声だった。
しゅん…とさがるしっぽを見たら、頭が冷静になっていった。
「どうしたの、グリム」
リドルと触れ合っていた手を放して、しょげいてるグリムを抱きしめる。
「オレ様にも…かぞく?ってモノがいるのか?」
「魔獣の家族形態は知らないけど、
自分の家族の記憶はないのかい?」
「……何も覚えてなんだゾ。
気がついたら独りぼっちで…。
ずっと何かを待っていた…ような気がする」
ぬくもりを分け合うハリネズミ夫婦を羨ましそうに見つめるグリムに、リドルとユウは言葉を失う。
普段ひょうきん者で、デリカシーのない彼だが家族の温もりが恋しくなってしまったのだろうか…。
ギュっと抱きしめる腕に力がこもる。