第5章 No(契約なんて致しません!)
「うーん…牛丼とかの方いいかな?
でも野菜も食べてもらいたいし……うーーん」
冷蔵庫に眠る材料を見比べて、ユウは頭をひねる。
日本に住んでいた頃も、唯一の肉親である兄はいつも仕事で遅く、料理全般はユウの担当だった。小さい頃から作っている為それほど苦痛ではないが、グリムと暮らし始めてからは…一人で作るよりも、二人で作った方が楽しいし、出来立ての料理を一緒に食べるのは普段より二倍美味しかった。
なので、オンボロ寮でグリムと暮らす生活は
ユウにとってかけがえのない時間だった。
今では胃袋宇宙のネコチャンと一緒に住んでいる為、どこか思考がお母さんになってしまうのは仕方ない。
…食欲旺盛な男子高校生が
満足するメニューってなんだろう。
普段、オンボロ寮では和食中心だが
食堂のメニューはもっぱら洋食がメインである。
思えば…モストロ・ラウンジのメニューはピザやパスタが多いし、ジャミル先輩の所ではスパイシーな郷土料理が出てくる。
日本の料理って、あまり存在しないのかな…?
にしては、フロイド先輩がよく「たこ焼き食べたい~」と言っているから、謎だ。
「……よし、メインはとんかつにしよう!」
先日「余ったらかやるよ」とレオナ先輩が
放り投げていった大きな肉の塊を調理台に乗っけた。
◆
肉は食べやすい大きさに切って、フォークで細かく穴を開ける。両面に塩、こしょうをふって味が染みるまでしばらく放置。
「グリムっー!手伝って~」
「おうよ!」と言ってカリム先輩からもらった熱砂のスパイスを並べた。ジャミル飯に胃袋を掴まれてから、グリムは熱砂の国の料理をこうして好んで作れるまでになった。
トレイやジャミルの時も料理の手伝いしてたから、大丈夫だとは思うが…念の為いつもスープだけお手伝いをお願いしている。
「ユウ、僕たちも何か手伝おうか?」
厨房が慌ただしくなったからか、兄弟や母の手伝いをしていたデュースやエペル、ジャックが来た。
末っ子気質のエースとセベクは、
座ってのんびりしてる。
こういう時って、性格でるなぁ…。
思わず、「ふふっ」と笑ってしまった。
「デュースは今日の主役なんだから、座ってなきゃだめ」と笑顔で告げた。