第5章 No(契約なんて致しません!)
ユウさんは、本当に純粋無垢でいらっしゃる。
あれほど無防備に他人に心を許すとは…。
目をつむり、本来敵であるはずの
ヘンリーに対しても
情けをかけようとしていた顔を反芻する。
「……この世界は、
彼女にとって
……ざぞや生きにくいことでしょうね」
警戒心がない弱者は、
あっという間に強者の餌食になる。
ーそれが自然の理だ。
だが、彼女は弱者の立場でありながら
心から他人を思いやり…敵にも情けをかける。
そして、強者であるアズールの企みや
レオナの企みも
ひっくり返してきた。
今回の勝負も…。
デュースには確かに呪いがかかっていた。
だが友人達を団結させ、主犯を突き止めたり雷魔法で妨害したり、風魔法で空気抵抗を軽くするよう指示していたのは、ほかでもないユウだ。
魔法が使えない女子というだけで、
この学園で一番の弱者であるのも関らず、
問題児ばかりの生徒を団結させる…。
まさに猛獣使いのようだ。
ー嗚呼、本当に面白い。
毎回、僕の予想を超えてくる彼女に
興味が尽きない。
予想外のことが起こるのは、大歓迎だ。
フロイドがリドルを見ると反応するように、
ジェイドにはユウが
今最も、気になる存在だった。
◆
「……イドっ、ジェイド!
……全く。聞こえていませんね、これは」
「ハァー」とため息をつくアズール。
お前がポンコツになると、
誰がこのイソギンチャクを
ラウンジまで連れて行くんだ。
「まーた黙ったままニコニコしてる。
意味わかんね…。
小エビちゃんも、こんな物騒な奴に執着されて
カワイソウ~。
気が向いたら、オレが守ってあげよ~っと」
その発言に、ギョッとする。
幼少期からリーチ兄弟を知っているが、
今日の二人は、今までの彼らからは
考えられないような言動しか取らない。
あの、フロイド(論外代表)が
見返りもなく守ろうだなんて……
まあ、アズールもユウのことは
それなりに気に入っていたし、
可愛い後輩が困っているなら
少しくらい…助けてやってもいい。
「ハァー」と再びため息をついて、
使い物にならなくなったポンコツ双子を置き、
ステッキを鳴らした。