第5章 No(契約なんて致しません!)
「っ…、……ふふっ、貴女って人は、
やはり、興味深いですね…」
口に手を当てているが、
隙間からギザギザの歯が見え隠れるする。
肩がプルプル震え、引き笑いなのか
酸素が足りなくて、少し顔が赤くなっている。
へー。ジェイド先輩って本気で笑うと、
あんな顔するんだぁ……。
現実逃避のような思考回路だったが、
いつも大人びてる彼が、
年相応な笑顔を浮かべたのを初めて見た。
落ち着いたのか、フーっと息を吐き
「ええ…。先ほどの話は嘘です」
「……えっ?!」
少年らしい笑顔を引っ込めて、
今度は涼しい顔で微笑んだ。
「ユウさんは、今どき感心なほど
お人好しでいらっしゃいますね。
こうも人をあっさり信じるとは、
…よほど清らかな心の持ち主なんでしょう」
(それって……)
「今の……絶対私のこと、貶してますよね?」
ジェイドはその答えを返さず、いつもの胡散臭い笑顔で「ニコッ」と効果音が出るみたいに笑った。
言葉を返せないでいる私の頭を、
形の良い手が、あやすようにひと撫でする。
だが…人を馬鹿にしたような態度に、
余計に腹が立った。
(何なのこの人は…っ!)
「人をからかわないでくださいっ!」
にやにや笑いから逃げるように、
その手のひらを払った。
「おや……契約はよろしいので?」
ユウが怒りに任せて口を開けようとしたとき、
近くに居たエーデュースとセベクが口を塞いだ。
「「「契約は…結構です(だ)ッッッ!!!」」」
そしてそのままユウを抱えて、
逃げるようにして、ジェイドに背を向ける。
ジャックとエペルと合流して、オンボロ寮に戻ってくるまで、鈴を転がしたような笑い声が後ろから追いかけてくるような気がした。
◆
ユウを見送ったあと、
ジェイドの微笑みに苦いものが混ざった。
「ジェイド~。いい加減
小エビちゃん、からかうのやめたら?
オレまでとばっちり食うじゃん」
「からかうなんて…。
僕は、純粋無垢なユウさんが
今後他人にだまされない様に
忠告したまでですよ…」