第18章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)中
「チッ」
先程と打って変わって静まった寮内の廊下。
絞めても絞めても群がってくる魚群に嫌気が差し、フロイドは鬱陶しい気持ちを吐き出した。
(……吞気に恋の歌なんて歌いやがって)
きっかけは自分とアズールのせいだが、自身の恋心を自覚してからと言うものどうにもジェイドの浮足立った動向が気に食わない。
一番の原因は、
片割れが直ぐに小エビに求愛しに行かないことだ。
毎日オンボロ寮に通っているみたいだが、なんだかんだ理由を付けてはのらりくらりとしやがって…。フロイド自身も小エビを可愛いと思っている分、釈然としないジェイドの行動がうざったくて仕方なかった。
同じウツボの人魚として臆病になる気持ちや、獲物を狩る時は確実にイけるという確証を得られるまで待つのが得意なのは理解できる。
そう。頭では理解はできるが…、
心が納得出来ない。
「クソッ……」
振り回されることが好きではないのに、ずっと頭に中に彼女がいる。
苦しそうな顔。辛そうな顔。嬉しそうな顔。驚いた顔。
出会ってから今まで見てきたユウとの思い出が、脳裏に焼き付いて離れてくれない。
夢にユウが出てくる度に幸せな気持ちで一杯になるのに、朝覚めるとどす黒い気持ちに支配される。飲んでもいないブラックコーヒーに苦しめられるのだ。
それでも…ジェイドと奪い合う気はない。
だって…あいつは自分の欲しい物でも
全部オレに譲ってくれたから。
ジェイドが心の底から本当に欲しいもの…
オレが奪っちゃったら、可哀そうーじゃん?
だから、小エビちゃんはジェイドを幸せにしてやってよ。
オレの心にこれ以上、入ってこないで……
「小エビちゃんのバカ」
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