第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
これでやっと教室まで行けそうだと、ジャミルは足を進める。
各寮の恋愛協定が破られてからと言うもの、隙あらばユウを手に入れようと動く生徒が後を絶たない。告白だけならまだ可愛いほうだ。時には胡散臭い魔法薬や、事故を装ってユニーク魔法までかけようする生徒までいる。力技ばかりの馬鹿ばかり。
自寮での悪巧みは事前に全て潰して来たとは言え、全学年・全生徒となると、流石にジャミルだけの力では限界があった。
そこでカリムを通じて、同じように穏健派のハーツラビュル寮に協力を仰いだ。まさに策略家。遠望神慮のスカラビアらしいやり方だ。
リドルと手を組むことは多少プライドが削れるものの、これでユウの笑顔を守れるなら安い買い物だ。
思い出されるのは…絹の街で妹・ナジュマと目を輝かせて話す彼女の姿。言われてみれば同性同士のふれあいがない環境を不憫に思ってしまった。男子校なので当たり前に生徒は皆男。教師も全員男。ショップの店員もゴーストでさえも男ばかり。
不遇でトラブルばかり起こる学園生活にも弱音をこぼさず適応している彼女は、そこら辺の女性よりも確かに胆力があって強いのかもしれない。だが、見かけだけで判断出来ない。心に闇が生まれるのはとても簡単なことだから。
この悪童の中でもユウを守ってやれなければ…。ジャミルの中で使命にも似た何かが熱く叫んでいた。
幸いユウからも好意を返してくれるので、つい意地悪を言ったり、世話を焼きたくなってしまう程可愛く想っている。幸せになってほしい。