第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
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「いたいたー!ユウ~!」
「無事か?!」
「?…おはよー二人とも。
オンボロ寮まで迎えに来てくれるなんて珍しいね」
ドタバタとコミカルな足音でやってきたエーデュースコンビ。
陸上部のデュースはともかく、やる気皆無でそれなりに手を抜くエースまでもが汗をかいて走ってくる姿が新鮮だった。
(今日、なんかあったっけ?)
朝一番でジェイド先輩の来襲が終わったかと思えば、次はトランプ兵達。気心しれている分、二人の顔を見るとホッとした気持ちになる。
「おまえら来るのが遅いんだゾー!」
そこに、ユウの足の間をすり抜けて半泣きのグリムがエースの顔に飛びつく。「うげ!」とエースの情けない声が朝のオンボロ寮に響いた。猫とハートのじゃれ合いをユウとデュースはしょうがないなぁと顔を見合わせた。いつもの光景だ。
ああ、やっぱり夢だったのかもしれない。
朝からあの色気ムンムンな人魚が来たことなんて……。
「ジェイドが、オンボロ寮にカチコミに来たんだゾーーッ!!」
(……夢じゃなかった)
現実逃避しようにも悲痛なグリムの叫び声に、ユウは思わず頭を抱え込む。
「ぶなぁぁ」と泣きながら短い手足で器用にエースの頭まで登る。なんでもっと早く来なかったんだ!と責めるように耳から出ている青い炎は強火だ。
「ゲッ!(よりによってジェイド先輩?!
抜け駆けとかやってくれるじゃん)」
「カチコミ?!…ユウ、無事か?なにかヒドイ事されてないか?」
「ああ、うん、無事と言えば無事。…かも?」
「なんで、疑問系なんだよッ!?」
探知能力の高いエースは、得意な魔法解析学の原理を駆使して周囲の魔力の痕跡を探った。
浄化魔法や修繕魔法に加え、獣人用なのか香草までわずかにまかれている。ここまで高度な魔法を複雑に使用する奴なんて、病的な綺麗好きか、人殺し後のマフィアくらいである。
いかにも、あの双子がやりそうなことだ。
よく知る物騒の塊である先輩達の笑い声が頭に響き、エースは人知れず胸焼けした。デュースはそんな事があったなんて夢にも思わず、ユウの身体に異常がないかつむじから足元までチェックし、忠犬ハチ公のようにグルグルと回っていた。