第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
「困ったら、必ず僕を呼んで」
耳元で囁く声は、まるで悪魔の誘惑。
それと同時に耳元にパチっとした痛みを感じると、今までのし掛かっていたジェイド先輩の巨躯が離れていった。大事な言葉は言ってくれぬまま。
違和感の正体に触れる。
生憎ピアス穴は空いていないので、これはイヤリングだろうか。
「僕からのプレゼントです。
ユウさんから頂いた『親愛』のお礼に。
それに三回触れると、僕の所へ知らせが来るように改良しました。
お困りな事があれば、必ず僕を呼んで下さい」
怯えた目で見上げると、
そこにはいつもの微笑みを張り付けた男が立っていた。
ジェイドがマジカルペンを軽く振ると、キラキラと煌めく粒子を振りまいて手鏡が現れた。ソレを丁寧にユウの小さい手に握らせて、艶髪を掬って耳元にかけられる。されるがままのユウは手鏡越しの自分を見つめた。
「今日のジェイド先輩、なんか…変です」
白い貝殻のイヤリングがキラリと光る。
「おや。そうですか?
僕がいつもと違っていたのなら、
…それは全部、貴女のせいですよ」
耳元でハァと吐息を吐かれ、全身の血が熱く茹で上がった。
「寂しくなったら遠慮せず、使ってくださいね」
「………からかわないでっ」
このままだと、甘い毒に侵されてしまいそう。
羞恥で濡れた頬と汗ばんだ背中をジェイドから離し、逃げるように距離を取る。
卑怯だ。
あんな顔で迫られたら、女ならば少しはキュンとしてしまうではないか。ユウはハネウマのように暴れる心臓をグッと抑え、息を吸った。
「ユウさんの、力になりたいんです…」
いつも悪巧みに使う常套句の台詞なのに…。
何故だから泣きそうになりながら、困ったようなに眉毛を下げる先輩を見たら、こっちまで泣きたくなった。
ほら、やっぱり…今日の先輩はナンカ変だ。
キュウウと胸を苦しく絞める音が耳から離れない。
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