第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
ジェイド先輩との身長差を考慮して、頬へのキスは諦めた。そのかわり精一杯の愛情表現として、彼の大きな手に頬を擦り寄せる。温かな温度に触れた瞬間、面白いくらいにジェイドが硬直したのが分かった。
言ってやった。
小恥ずかしくて、桃色に頬が染まる。
どうだ。
貴方が欲しがっていた『親愛』は、
こっちはとっくの昔から感じてるんだ。
教科書で容赦なく他人を殴り蹴るの暴行を加えたり、自分の好奇心しか興味ないような物騒なウツボだとしても…。
ジェイド先輩がいたから、
私は頑張れたのだ。
これで満足かと意趣返しにジェイドの顔を見ると、予想外の表情に今度はユウが口をポカンと開けた。
そこには「おやおや」と意地悪く笑う表情や、「当然です」とほくそ笑む彼はいない。
目の前には…
身体中から汗を流して、
顔を真っ赤に抑えているジェイド先輩がいた。
瞳がどこか蕩けている。
(…茹でウツボ)
口に出したら即死案件の台詞は、
ギリギリの間を置いて喉頭で消えた。
ジェイドと視線がカチリと合うと、
これ以上見るなと言わんばかりに、全身を絞められる。イヤ、抱き絞められる。
「わッ」
ギューーーーーと大きな体と長い両手で巻き付くように、抱きしめられた。仮に人魚の姿だったら、尾鰭がグルグルに絡みついていただろう。
ドンとぶつかったジェイド先輩の胸板は、細身な癖に体幹がしっかりして逞しいものだった。身長差のせいで丸め込むように抱きしめられたうなじに、彼の髪がくすぐるように当たる。シトラスと汗の香りが混じり合い堪らなく濃厚な香りだった。
「ああ、ユウさん…
貴女の為なら、どんなことでも喜んでやります。
誰よりも確実に、正確に、その身を守って差し上げましょう。悩んでいたら助け、悲しんでいたら慰めてあげたい。
貴女の感情の一欠けらですら僕以外の誰かに向けられる事が、こんなにも許し難いとは…。
許されるのなら…
有象無象の雄達と同じではなく、
………僕だけに。
特別な感情を向けてくれませんか…?」
「それは…っ、どういう意味ですか?」
ぶつけられる熱量。愛しい、愛しいと体現してるかのようにギュッ、ギュッと強く抱きしめる腕の力が増した。彼の尾鰭の中に無理矢理仕舞い込まれるようで、酸素が足りず息が苦しい。