第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
和やかな雰囲気にこのまま流されてしまいそうな心を、なんとか振り絞ってユウは本題に切り込んだ。
「今日はどうされたんですか?」
こういう事はストレートに聞いた方がいい。
相手へのブラフにもなるし、ジェイド先輩相手に回りくどい事をしても時間の無駄だろう。
数秒の沈黙があったが、決して目を逸らさなかった。
ジェイドとユウの瞳が絡み合い、身悶えするくらい心臓が五月蠅かったが、どうしてもこの男相手となると自分はどこか意固地になってしまう。
「……大切なお話があります」
地獄のような沈黙を先に破ったのは、男の方だった。
◆
「僕と交わした契約を覚えてますか?」
「はい」
「僕は貴女に特別な興味を抱いた。
『ユウさんの行動を逐一観察するかわりに、元の世界に帰るまでその身を守り、生きる術を教授する』という内容でした。
実際にユウさんの成績アップや、体力向上に貢献出来たと自負しています。ですが…、
僕はどうにも、
観察するだけでは、飽きてしまったようで…」
「…といいますと?」
『飽きた』と言う台詞をフロイド先輩ではなく、ジェイド先輩から聞く日が来るなんて。嫌、でも物は考えようだ。このままフェードアウトしてくれればこの物騒の塊から解放され、無事平和な学園生活を送ることが出来るのかもしれない。
「これからは、観察以外の『対価』をもらいます」
「対価」
「ええ。これまでユウさんを助けて差し上げた僕の働きを思えば、安いものかと」
「具体的には?」
「…そうですね。
その時に応じて、僕が欲しい物を指定するのはいかがですか?」
「…………肝臓ですか?腎臓ですか?命ですか?」
「ユウさんは僕を何だとお思いで?
僕は紳士なので、女性に無体を強いるような真似は致しませんよ。ご安心ください」
むむ…。聞き捨てならん。絶対に語尾に(笑)がついてた。
この紳士(笑)の皮を被っている狂ったウツボの本性を私は何度も目にしている。簡単に騙されてはいけないとも思うが、これまで培ってきたジェイド先輩との思い出を振り返ると、どこか情に絆される自分もいる。