第17章 Broken(抜け駆けナシ・恋愛協定は破られた)上
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目の前には置かれたのは、芳醇な香りを漂わせた紅茶。
食器が重なる音もなく恐ろしく上品なサーブは、まるで高級レストランの給仕そのものであった。
「僕オリジナルのブレンドティーです。
どうぞ、お召し上がりください。
お口に合えばいいのですが…」
「あ、ありがとうござい、ます」
以前にもこんな事あったな…とデジャブを感じるジェイド先輩の突然の訪問。ユウは昔の漫画に出てくるコメディのように足をクルクル回転させてあっという間に制服という名の防護服を着こんだ。
急いで1階まで舞い戻ると、そこにはニコニコと笑顔なジェイド先輩がいた。…夢ではなかった。
190cmの大きな背がキュっとこじんまりに縮こまり、人好きのする表情でユウに座るようエスコートする。
VDC以来かな…?と記憶を過去へトラベルした。なんだか緊張して、手に汗が湧き出る。誤ってコップを落とさない様に両手で支えながら口を付けた。
「美味しい…っ」
思わず吐息が漏れる。
ミステリーショップでセールになっていたグレーのマグカップ。黒猫がグリムみたいだねと盛り上がって購入したが、中身の高級紅茶と悲しいくらい釣り合っていなかった。
だが、ユウの一言で普段キリッとしているジェイド先輩の眦が優しく垂れる。ユウは久しぶりの贅沢を味わいながら、嬉しそうにはにかむ彼を見て緊張が溶けた気がした。
「深みのあるルフナと爽やかなディンブラの2種類をブレンドすることで爽やかな香りで目覚め、ルフナのボディーで朝のおいしいミルクティーになるようイメージ通りのブレンドティーに仕上げております」
ジェイド先輩が喜々として語ったブレンドの内容は今いち分からなかったが、紅茶は夢のように美味しかった。口の中でミルクティーの甘さが花のように蕩ける。幸せだ。