第4章 True friend(マブダチといつもの日常)
ユウはメガホンを持って「そージャックも言ってるよー!風邪引くからやめよー?」とアップに集中しているデュースに叫ぶ。
デュースは少し怒ったような顔をして、
胸を張って答えた。
「優等生の僕にだって、譲れないものがある!」
それを聞いて、今日何度目かの説得に失敗したユウは「はぁ…」とため息を吐いた。
自分の為に、彼が怒ってくれるのは嬉しいが…。
そんな優しい彼だからこそ、
無理して体を壊してほしくなかった。
只々デュースの身を案じている彼女とは裏腹に、
先ほどの台詞から、なぜか男たちは燃え上がった。
「……デュースクン!
おめーが、ほんとの男の中の男はんで!!」
「譲れないこだわりってやつか?
あんまり、ユウを心配させんなよ。
…さっさとケリつけてこい」
「さみぃ~。パパっと終わらせて早く寮に戻ろうぜ」
三者三様の反応だったがクラスが違えど、みな今回のデュースの行動を止めずに見守っていた。
なぜって? 俺達だってダチを馬鹿にされて
怒らないワケない。
デュース一人がユウに良いところ見せるのは、癪に障るが、売られた喧嘩は倍返しするのがNRC生の流儀だ。
グリムの耳がピンっと動き、
背後から音が聞こえた。
例のオクタヴィネルの先輩だ。
複数人の取り巻きもいる。
「先輩!選抜メンバーが気に食わないなら
なんで俺にも勝負を挑まないんですか?
一年だからって
先輩たちに遅れをとるつもりはないぜ」
同じ陸上部のジャックが牙を出して吠える。
(ふん…。ヒト族が獣人族に勝てるワケないだろ。)
オオカミの獣人であるジャックより、勝機があるデュースを狙っていたのだ。このまま上手くいけば、次回の選抜メンバーの席が一つ空く。
席は自分用の一つ分で十分だ。
無理に勝負を挑む必要はない。
「スペードが勝負を受けた以上、
これは僕とスペードの勝負だ。
…外野は黙ってもらおうか」
オクタヴィネルらしい小賢しい考えを瞬時に脳内で描き、ジャックに向けて吐き捨てた。