第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
自分の倍はある高い男に持ち上げられると、
下が怖くて見れたもんじゃない。
普段見ている風景とはまた違った、マレウスが見ている世界と同じ目線に立つと、道行くものが本当に小さく見える。落ちた時の恐怖に、なけなしの体力を総動員して、彼の太く長い首に腕を回した。
心なしか上機嫌になったツノたろうは、鼻歌でも歌い出しそうな笑顔でユウの話をうんうんと聞いていた。(話を聞かせろとせがまれる)
「それでね、真実の泉のおばさんに『愛することを、恐れてはいけない!』って言われたの」
さすがに恥ずかしくて、自分が相談した内容までは話せなかったがかいつまんで説明した。
「ふむ…。一理ある。
お前は人に好意を与えるのは得意だが、
他人からの好意を拒絶するきらいがあるからな」
「…そうかな?
そういう所がダメなのかな…。」
「上に立つ者や、力ある者は
崇敬や畏怖の感情を向けられる事が常だ。
純粋な好意であれば、受け取っておいて損はない。
人の子には僕から友として、親愛を贈ろう」
不意打ちで、ちゅっと額に口付けされる。
「……っ!!?」
二度目のキスに、
一瞬でユウの頭がメルトダウンした。
わーーー!!
きっとワンダーランドでは
こういうスキンシップが普通なんだ。そっか。
アメリカン的な…。
挨拶でキスハグしちゃう文化みたいな。
そう思うと、確かに仲良くなった先輩からはよくキスされるし、きっとそうなのか!フロイド先輩とか、もはや甘噛みだもんね。(私はエサじゃないのよ!)
ならば、返さないのも失礼なのか……?
早々とユウの頭で脳内会議が行われる。
「首をはねておしまい!」「ノーコメント」「これは弱みを握るべき!」「仲がいいって良いことだよなぁ〜」「スキンシップに決まってるでしょ」「これだから陽キャに近づくなとあれほど言ったのにッ」と何故か各寮長の声まで聞こえる。
恥ずかしげもなく慈しむような瞳で見つめるマレウスの態度が答えだろうと、ユウは決断を下した。