第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
「泣き虫なLittle princess.(小さなお姫様)
ここに辿り着いたということは、何か知りたいことがあったはずだ。
あんたが本当に知りたいことは、寮への帰り道かい?」
「…オンボロ寮に帰りたいのは本当よ。
でも別の事で迷ってたのも事実だわ。
泉のおばあさん。
…どうか、教えて。
いったい私はどうしたのいいの?
自分の進むべき道が全くわからないの」
自分がどう生きたらいいか。
どう進めばいいのか。
帰らなきゃいけない場所があるの。大切な家族もいる。
いつか別れを告げなきゃいけないから、
嬉しかったことや、楽しかった思い出に蓋をして、苦しまないように深入りしない様に、何も感じない様に心を閉ざしてきた。
でもこの不思議な世界では、帰る場所よりも仲良くなれた友達がいて、尊敬できる先輩もいて、優しく親代わりのように接してくれる大人達もいる。
もっとこの世界の歴史も知りたいし、
行ってみたい場所だってある。
ワンダーランドの世界を好きになってきているの。
だからこそ、このまま偽り続けるのが辛い。
「でもそれって…あまりにも自分勝手すぎない?」
結局自分が傷つくのが、怖いのだ。
どうしようもなくなった時、娘が母親に愚痴るようにユウは感情を吐き出し続けた。相手の心情を思いやらず、自分の心をさらけ出すのは、ワンダーランドにきて初めての出来事だった。
話し相手が無機質な泉だったからか、先程までの母親の温もりが残っているからなのか。ユウは、手持ち無沙汰の腕でふわふわな獣を人形のように抱きしめた。
「ああ、可哀そうに。
二つの世界に心が引き裂かれているんだね。
本当の自分を知れば、
お前自身が、何を望んでいるかもわかるはずさ。
自分が何者なのか、思い出してごらん。
本当の自分を…」
「本当の、自分?」
「そうよ、世間知らずのレディ。
自分がどこから生まれてきたのか。
なぜその瞳なのか、ちゃんと思い出して。
そして決めなさい。
どちらの世界で生きていきたいのかを…」
「おしえてよ、おばあさん!
どんな疑問にも、答えてくれるんでしょう?」