第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
小さい羽根をばたつかせて飛んでいってしまう。クスクスと鳴く可愛い生物も、ついてこい!と言わんばかりにユウを見ている。
あわてて追いかけると、霧が晴れたように青い空間が目の前いっぱいに広がった。
妖精の後を追いかけて辿り着いたのは、まさしく泉そのものだった。音が消えた世界のように神秘的な空間で、碧い海面が輝る。
(オンボロ寮の周辺にこんな場所があったなんて…)
「求める者の前に現れる『真実の泉』。
その泉はどんな疑問にも、噓偽りのない真実を教えてくれる。世界の秘密も、隠された財宝の在処も、滅びた国の歴史さえも。
賢者・ソロモンが生み出した、
世界に三つしかない魔法道具の一つダ。
さあ、オンボロ寮のプリンセス。
何でもいい。知りたい事を尋ねてごらん」
導かれるように、ユウは座り込む。
覗き込んだ碧色の海面は、一点の穢れもない純粋な一色だった。
泉に写ったのは、自分の顔。
髪は水に濡れ、疲れ果てた表情はそれはそれはヒドイ顔だった。
一滴。
波紋が小さい和を作り、波となって水面を揺らす。
覗き込んで写っていた自分の顔がいつの間にか、老婆のような顔に変わっていた。それは闇の鏡に写る男の仮面に似ていて、さながら兄弟…いや、祖母?のようだ。
「あの……。私はユウ。
オンボロ寮まで帰りたいの。
道を教えてください」