第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
「クスクス…」
「ダイジョブ?…ボクたちのプリンセス」
「…ワァー!!こないで!」
先ほどのイタズラ妖精がまた来たのかと思い、ユウは虫を追い払うかのように両手を激しく振った。だが、ソイツはしぶとくも腕をかいくぐる。
「オイ!オイ!…落ち着いてテ!
なんだコノ人間!全然プリンセスじゃない!」
「うわ!しゃべった?!」
「当たり前ダロ!
全く近頃の人間ときたら…。
ミノタウロスの顔面より失礼なレディだな」
目をぱちくりとして改めて見ると…
いかにも不愉快デスと顔に書き、腕を組んでユウを見つめる小さな男の子。輝く金色の髪に緑の服。その体はミニマムで羽がパタパタと動き、ユウの手のひらに収まった。
「ボクは、ティンカー・ベルの息子。
金(かな)もの修理の妖精サ!
特技は、壊れたおなべやフライパンを直すコト。
今じゃワケあって、相棒のコイツと真実の泉の番人をしてる!
迷子のお嬢さん、真実の泉に何か御用で?」
手のひらの上を踊るように喋る妖精。クスクスと不思議な声で鳴き、足元にすり寄ってくるのはフェネックのように耳が長い四足歩行の生物だ。額に、磨き丸く仕上げられたザクロ石のような物が埋め込まれている。なんともファンタジー!
「可愛いッ!!」
「クスクスー♡」
「て、無視すんなヨ!」
モフモフと柔らかい高級な肌触りで、撫でてみるとグリムとは違った真っ白の冬キツネのような色合いが可愛らしい。
…はあ、癒される。
さっきまでの悪魔はきっと夢だわ。夢。
「オイ!人間!さっさと名乗らないと、ピクシー・ホロウに連行するぞ!」
プンプンと目の前を黄色と緑色のネオンが交差する。
うう…目に悪い。
「申し遅れました。私は、ユウ。
ナイトレイドカレッジに通うオンボロ寮の監督生よ。寮の庭からそう遠くない所にいたと思うんだけど…、恥ずかしながら迷子…デス。ここはどこなの?」
「ユウ…?
ほんとうにユウ?
フーーン。
真実の泉も知らないのに来た人間なんて此処100年、初めての出来事ダヨ。ついてきて」
「あ、でも私…オンボロ寮に帰りたいんだけどなぁ~」
「だーかーら、帰り方を泉に聞くんダヨ!」
「クスクス!」