第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
この世界では殺人と同じく強姦は死罪。
世界魔法機関(WMO)に加入する47の連合国が定めたワンダーランド第一の掟だ。加入国に夕焼けの草原のような女尊男卑の国々も多く、その名残からファッションやメイク、価値観もジェンダーニュートラル(性差の性差にとらわれない考え方)が常識となっている。
ユウが女性でも男子校を大手を振って歩けるのも、この法律のおかげだ。入学時に学園長に男装の提案をしたら、羽根をまき散らしてながら怒涛の責めを食らった。(「私の学園にそんな破廉恥な生徒はおりませんッ!!!」)
おかげ様で狼の中でも仔羊は清純を守ることが出来たが、どこの世界にもはみ出し者はいる。しかもこの学園には世紀の悪童がウジャウジャと在籍している。
性犯罪に及ばないにしても、魔法が使えないユウに対してジュースをかけられたり、ノートを捨てたりと陰険な嫌がらせは横行していた。また珍しいアジアな黒髪に惹かれ熱心に口説いても靡かない彼女に腹を立て、逆恨みする輩も少なくなかった。
そんな環境でも、ユウが笑っていられたのはひとえにマブ達の存在が大きい。
友人の内の一人ではなく、仲間として、トラブルを乗り越える度に絆が深くなっていくのを感じていた。
家族もいない世界に一人ぼっちなユウにとって、彼らと過ごす時間は何よりも、かけがえのない時間だった。
なのに……
「………最低だ。私」
エペルからの向けられた想いに、
何も返すことが出来なかった。
エペルのことはもちろん好きだ。
エースも、デュースも、ジャックも、セベクも。
でも…。
異性として好きかと言われると、途端に分からなくなる。
そこで気がついた。
私は彼らを夢の世界の住人として、ぼんやり見ていたことを。どんなにひどい仕打ちや辛い言葉をかけられも、平気で入れたのは、この世界は幻だと知っているから。いつか元の世界に帰れると思っていたからだ。