第16章 Hecate's tears(ヘカテーの涙)
「ズっ……」
帰れぬ故郷を想うと、鼻がツンと熱くなる。
真新しい世界や魔法に心ときめく事を楽しんでいたが、出口が見えないトンネルがずっと続くとさすがにタフなハートも罅が入る。
どんなに辛い目にあっても、死にそうになっても、人前で泣くことだけはしないと戒めた鎖が溶けそうで、目の奥がうるりと痺れた。泣くまい、泣くまいと唇を嚙み締めると、余計に涙腺が濡れる。
自分以外誰一人と意識ある者はいないのに、その顔すら晒したくなくて、たまらず毛布を頭からかぶった。(ホント強情だよなとトラッポラのお節介が聞こえる)
布一枚のベールでもその暗闇はユウの弱さを世界から隠してくれた。
◆
「どうしよう…どうしよう…グリム」
助けを求めても、肝心な相棒はまぬけな姿で腹を出して寝ている。(野生はどこへ消えた)
ユウを絶望の深層に駆り立てているものは、やはり同級生であるエペル・フェルミエの告白だった。
魔法が使えない女の子とモンスター。
名門と呼ばれるNRCにおいて、ユウの存在はイレギュラーを極めた存在だ。しかもトラブルメーカーの相棒のおかげで、これまで大いに悪目立ちしすぎた。
今のワンダーランドでは、セベクのように異種族間のハーフの子も増えたし、エースのように魔法が使えない親からも魔法士の卵が産まれることが少なくない。偏見や差別は時代と共に減少してきていると言えるが…
一昔前の古い考え方では、魔法士とはそもそも選ばれた存在であり、力のある者しかなれないという魔法至上主義者の頭の固い連中が多かったらしい。
NRCに選ばれる生徒はデュースのように一般家庭出身もいるが、大半が優秀な血族の出身だ。
いくら時代が変わってきたからと言って、いじめが完全になくならないように、差別的な風習も消えない。要約すると力のないユウは、格好の的だったのだ。