第15章 In the name of love(オクタの恋愛相談室)
そこはまさしく戦場だった。
「フロイドぉら!いつまでそこでサボタージュしとんだワレ!」
「3番6番オーダー入りましたぁー!」
「小エビちゃんがいないからって手抜いてんじゃねーぞ」ボソッ
「ア゛…?!今小エビちゃんのこと小エビ呼びした奴誰?小エビちゃんって呼んでいーのはオレだけだかんね?!」
「プッ…彼氏ヅラどんまい」
「沖出ろや!ミノカサゴッ!今すぐ活き造りにしてやんよ」
「ドリンク出来た。持ってって」
「フロイド!あの人すぐ毒吐くから。気にしないでやって」
「ユウちゃんはやくキッチンに帰ってきてくれ…」
「絞めるッ!」
「ちょッ。だれかチョッパヤで防音魔法と防衛魔法重ねといて」
「もうこれMAXっす…」
「マジ?」
怒号が飛び交うモストロ・キッチン。
給仕から慌ただしいオーダーが入ると、包丁やらフライパンを片手に格闘しながら器用に料理を捌いていくスタッフ達。その治安の悪さと戦場並みの殺傷能力がナイカレの持ち味である。
肉食魚の大型人魚達が歯を剝き出しにお互い威嚇し合い、小魚達が青い顔してその隙間を泳ぐ。
オーナーであるアズールはこの張りすぎた防音魔法に負けじと大声を張った。
「注目ッッ!!」
ステッキをドンと床に叩き付ければ、今までの騒音が一瞬で静まる。ナンヨウハギの人魚が、トン…とまな板でマグロの頭を真っ二つに切った音が最後だった。
「皆さん、ユウさんから差し入れ頂きました…」
アズールが学園唯一の少女の名前を口にし、片手に女の子らしいラッピングの袋を掲げると、全員がそのピンキーな柄を食い入るように見つめた。
「「「…………。
フォォッォーーーーー!!!」」」
数秒の沈黙の後、アズールのその後の言葉も聞かずに男どもが歓喜の声を上げる。”女子からの差し入れ”しかも、かわゆいあの子から。明日からマウント取り放題だ。
これにテンション上がらる男は男ではない。
自由、娯楽、快楽というすべての欲を奪われ、悪の城に四年間閉じ込めらている男子高校達は、ちょっとした女子力に過剰に反応してしまうのだ。