第15章 In the name of love(オクタの恋愛相談室)
キョロキョロと周囲を見回すアズールに、ポンポンとフロイドが肩を叩く。
「ブラザーならもうとっくに潮の彼方」
「まったく!人をココまでこき使っておいて…!いい迷惑ですよ。慰謝料としてしばらく無給で働いてもらいます。
帰ったら後片付けは全部奴に…」
アズールがぐちぐちと小言を言う傍らで、
フロイドは物凄い速さで頭を回転させていた。
(…コイ、こい、恋。)
人魚は大きく二種類に分けられる。
人間と交わり、姿形も人間と近い魚人と、人魚通しの交わりに重きを置いてきた純血の人魚だ。
種族間同士の戦争が終結し、人魚の多くが陸に上がった。今は王族ですら魚人の割合が多く、海広しとは言え純血の人魚は本当に数が少ない希少な存在だ。
その中で、代々純血を守ってきた
リーチ家は珊瑚の海の中でも有名だった。
純血の人魚は魚人達よりも魔力量が多く、腕っぷしも強い。いにしえの魔法も操れる為、古代魔法にも精通している。ニュンペーやセイレーンのように見た目も原種の姿を色濃く受け継いでいる事から、一目見れば違いがすぐに分かる。
暗い海の世界は弱肉強食。
少しでも強い雄と番おうと、人魚の雌達がフロイド達に言い寄ってくるのは、ある意味必然とも言えた。
言い寄ってくる雌達を味見しながらフロイドもジェイドも正直退屈していた。
ドキドキもワクワクもしない。興味がわかない。面白くない。つまんない。
色とりどりの尾びれに囲まれても、綺麗な歌声で媚びを売られても、うっとしいだけ。
これなら沈没船でサメと命がけの追いかけっこをしていた方が、スリリングで楽しいはずだとフロイドは思った。
アズールとフロイドと共に、愚かな人魚達を陥落させ、次はまだ見ぬ陸の世界へ。誰も考えようともしなかったことを面白い幼馴染が実現しようとしている。とっても興味深いとジェイドは思った。
そうして三人で過ごす内、あっという間に”恋愛”という思想は、自分達の優先順位から転げ落ちるように消えた。今は、兄弟と幼馴染。この三つがあれば、世界は光り輝いて見えたのだ。
だからこそ、双子は知らなかった。
昔から相手に求められることに慣れすぎたリーチ兄弟にとって、恋とは落とすものではなく落ちるものだという世界の原理を。燃え上がるような恋心を。
…奇想天外な異世界の少女に出会うまでは。