第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
「……な、なんでアンタに教えなきゃいけないのっ」
ツンデレ気味な台詞が口から飛び出した。
思わずテーブルの下で地団駄を踏む。「今、目の前の女性に心奪われてるわ」くらい言えればいいのに!
「先輩みたいな綺麗な人は、
きっと引く手あまたなんだろうなぁ…」
(そんなわけないじゃない!
アタシをこんなに振り回せるなんてユウだけよ)
口に出せたらどれだけよかったか。
ひとえにカッコ悪い姿を彼女に晒したくなかったプロ根性である。
フゥーと息を吐いて、
気持ちを落ち着けるよう紅茶を口にした。
先ほど他人の目も気にせず、愛の言葉を告白をしたエペルに敬意を覚える。男ならそれがどれだけ勇気がいる行為か分かるだろう。
(さすがに目の前であんなもの見せられて、
自分も…だなんて美しくないわ。)
他の男に取られそうになる焦燥感は
嫌になる程味わったが。
それでも彼女が自分を見るまで、
コノの感情に名前を付けるもんですか。
今はいいわ。だれよりも
”頼りになる先輩”の役柄でいてあげる。
ヴィルはそう結論づけて、冷えた料理を口にした。
ただ彼も年相応な初恋にヒヨってるだけだど、
学校では誰も教えてくれない。
◆
「アズールアズールアズール」
「Siriに話しかけるテンションで僕を呼ぶのやめてもらえます?」
「まーたジェイドが変なことやってる」
「………やっぱり僕はどこかおかしい」
「マジックマッシュルームでも食べたんじゃないか?」
「はっ倒しますよ」
その目はマリアナ海溝よりも深く鋭かった。
小魚達は見ただけで震えあがって逃げ惑う。
だが、金にもならない相談はしない主義のアズールは、鏡の前に湧いて出たポムフィオーレ生の掃除で忙しい。杖を振って遠隔操作でタコ足を動かしている。これは言わずもが高等魔法にあたり、大量のブロットを消費している為、余計機嫌が悪かった。
客にあのヴィル・シェーンハイトが来ているのだ。彼の口コミは良くも悪くも今後のラウンジの評判に関わる。
ウツボの片方(ジェイド)がポンコツになるせいで、もう片方(フロイド)に大量に仕事を振った。