第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
アズールのアテンドで一番広い席に通され、ヴィルが頼んだ料理の数々が運ばれてくる。いつもだったらグリムと同じように喜んでいただいているだろう。
だが……。
先ほどのエペルの告白に対して、答えを返せない罪悪感で胸は押しつぶされそうだ。
「……ハァ。このアタシと一緒に食事をしてるのに
他の男の事を考えるなんて。…罪な女ね」
「…………ごめんなさい」
「いいわ。個人のプライバシーに言及する気はない。だけど、その気がないのなら上手く躱す方法を覚えることね。
綺麗な花ほど寄ってくる虫も多い。
…女は毒があるくらいでちょうどいいのよ」
吐き捨てるような言葉と共に、普段の彼なら食べないようなカロリー多めな料理を胃に納めていく。その姿はどこかイライラして唐揚げを暴食しているアズール先輩に似ていた。
あまり辛気臭い顔をしているのも、せっかく食事に誘ってくれたヴィル先輩に申し訳ない。
そう思ったユウは、無理にでも笑った表情を作ったが、なおさらヴィルの顔が崩れていく。
ユウは知らなかった。
内心ヴィルが(ホント、アタシって最悪ッ!!この子にそんな顔させてたいわけじゃないのに…!)と叫んでいたことを。
上手く言い出せない自分の本心と、他の男(エペルの告白)でイラつき暴食するという行動でなんとか誤魔化して、冷静さを保とうとしていたのだ。
「ヴィル先輩は、恋したことありますか?」
ユウからの問いに柄にもなくドキッ!と体が動く。勢いよく食べていたパスタが喉につかえ、ゴホゴホと咳き込んで水を飲む姿は年相応の姿だった。
(ユウから、ソレを聞かれるとはね…)
ドラマや映画で恋愛モノや濡れ場など散々演じてきたが、自身が恋に落ちる体験などさっぱりだ。そもそも他人なんてほとんど"ヴィル・シェーンハイト"というブランドを通して色眼鏡で見てくる。自分の名を上げる為か、商売の利益に繋げる為か…はたまた中身を何一つ知らないのに妄信的に好きだと主張されるか。
どんなに仲良くしてても
相手の下心が分かった瞬間に冷めてしまう。
いまどき”ヴィル・シェーンハイト”を知らない人間なんて、この子くらいよ。
ヴィルが目の前の丸い瞳を見つめ返す。