第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
彼らはどこまでいってもヴィー様の虜なので、嫉妬する新たな表情はイグニハイドで言う「ご褒美」なのだ。
興奮冷めやらぬ、鏡の前ー
あと数分もすれば、カフェの支配人が「ハイ、営業妨害。営業妨害」と根こそぎ絞り取る地獄絵図が広がることになることを今は誰も知らない。
◆
なにやら騒がしい声がするが、商売繫盛は嬉しいこと。
ジェイドはいつも通り、
モストロ・ラウンジにて給仕の仕事に勤しんでいた。
そこに新しいお客様が来店する。
現ポムフィオーレ寮長にしてマジカメグラマーのヴィル・シェーンハイトだ。
今日は運がいい。
マジカメフォロワー500万人越えの彼がSNSにアップするだけで、売上も面白いくらい倍増するのだから。
彼には特別なおもてなしをしなければ。
スタッフを下がらせて、
ジェイド本人が対応しようとすると…
夢にまで出てきた少女の香りが鼻を掠めた。
「……ユウさん?」
いらっしゃいませと挨拶する前に、口をつついて出てしまった名前。数週間心待ちにしていたシフトは、明日からなので今日はいないはず。
だが、名前を呼ばれたからか…
細身だがしっかり筋肉がついているヴィルの背中から、ひょこっと愛らしい顔が出た。
「ジェイド先輩。こんにちは」
ちょっと元気がなさそうだ。
だが久しぶりに見た彼女の笑顔はキラキラと輝いていて、ずっと聞きたかったソプラノの声に胸がいっぱいになった。
突然のユウの登場に、
予定していなかったジェイドが固まる。
(どいつもこいつも…)
その姿が気に食わなかったのか、
珍しく苛立った感情を表に出したヴィル。
「席への案内はまだ?
目の前でお客様を待たせるなんて
アズールの店も、レベルが下がったものね」
「イエッ…あ「大変ッッ失礼しました!!お席には支配人であるこの僕が!案内致しましょう」
どこから現れたのかびゅんっと風を吹かせて、横からアズール先輩が登場した。その勢いでぶつかったジェイド先輩が、綺麗に飛んでいく。
目を白黒させながら、ユウはヴィルに手を握られたまま席まで行くハメになったのだ。
ずっと会えなかったジェイド先輩とお話したかったな。
でも、今の自分では会いたくない。
相反する想いが胸をチクチクと刺すが、痛いくらい握られた手がこれが現実だと教えてくれた。