第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
「そんな顔しないで…。
困らせたくて言ったんじゃないんだ。
今はヴィル先輩に力でも魔法でもかなわない。
でも、いつか。
必ず……寮長を超えてやる!
……その時でいいから。
少しでも僕の事…考えてくれたら
嬉しい…かな」
「エペル…」
嬉しかったと言えばその気持ちに嘘はないが、どう返事をしたらいいか正直分からなかった。エペルの事も、この世界の事も、よく考えぬまま大切な友人である彼を傷つけたくない。
結局彼の優しさに甘えることで、
ずるい自分が嫌になった。
いつの間にか見守っていたギャラリーも少し涙ぐむ。もうモストロ・ラウンジに入る目的すら忘れて、彼の恋を応援しにきた団体までいた。
「本当に、フェルミエ君はなんて健気なんだッ…!ズビッ、美し゛い゛!僕はこの場面に立ち会えたことを心から誇りに思うよ…」とポムフィオーレ生が肩を寄せ合いながら泣いている。
こっちが泣きたいわ!プライバシー返せ!
こんな所で私の為に見世物にされるエペルが嫌で、さっさと場所を変えたかった。ムードもへったくりもありゃしない。
「オレ様腹へったんだゾ~。
まだ終わんねぇーのか?」
こんな時、相棒の無神経さが
これほど助かったと思ったのは初めてだ。
「エペル!ここじゃマズいから、どこか違う場所にいこっ!」
グリムの一言を理由にエペルの手をひっぱる。逃げ場はラウンジしかないが此処よりはマシだ。密着する二人にギャラリーが泣いたりわめいたりしているが無視した。
「おわっ…!」
だがもう片方の腕が自分より遥かに高い力で引っ張られる。
「今のパートナー(恋人役)はアタシよ。
この子が欲しかったら、座学でも実技でも
このアタシに勝ってからになさい。
いいわね?」
「くっ!…分かってます」
「行くわよ、ユウ」
「あっ!エペルっ…ちょっと待っ」
ユウの言葉を聞き終わる前に、力づくで彼女を抱えたヴィルによって二人はオクタヴィネルの鏡に消えた。
最後まで手を離そうとしなかったユウの手を名残惜しそうに見つめることしかできないエペル。
さながら本物の悪役のように、想い合う二人を引き裂くようなヴィル様の新たな一面を見て、ショックかと思いきや湧き上げるルークとポムフィオーレ寮生。