第4章 True friend(マブダチといつもの日常)
「これはこれは、陸上部期待のルーキ・デュース君じゃないか」
「…っス」
こんなに嫌らしく笑う男だったろうか。
オクタヴィネル寮の腕章をした二年生は、「初心者はまずバてずに全周するところからがスタートだよ」と優しく指導してくれた記憶がある。
競技大会のメンバー選抜から外れた時以降、そう関ることも少なくなったが…。
デュースの挨拶もまるで聞こえないように、まっすぐ向かったのは監督生であるユウの目の前であった。
「……?…あの」
当然面識のない先輩が目の前に来たことに驚きつつも、とりあえず自衛としてグリムを腕の中に抱きかかえる。
先輩の不審な動きを察知して、エースもいじっていた携帯を下げ、無言でユウを庇うように一歩前に出た。
相変わらずニヤニヤと薄気味悪く笑う先輩に、「用がないなら失礼します」とこの場を離れようとデュースが声を出そうした瞬間…
「キミが噂の監督生ちゃん…?
ふーん。可愛いね」
「なッ、先輩…!」
「でもさ…
どんなに可愛くても魔法が使えないんじゃ、
学園にいる意味なんてないんじゃない?
どんなに努力したところで、無駄になるだけだよ」
突然放たれたのは、
物理ではないにしても言葉の暴力だった。
その言葉にいち早く反応し、
拳を構えたのはデュースだった。
「いきなり、なんなんですか先輩。
ダチを馬鹿にされて、こっちも
はい、そうですかって引き下がるわけには
行かないんスけど」
「…デュース!」
今にも殴りつけようとするデュースを、ユウが制して男に向かい合う。
先輩である男は、その人形のようなお綺麗な顔で
少女が少しでも悲しそうに涙を流すことを想像していた。
それを見て少しでも憂さを晴らしたかった。
だが、実際に目に映ったのは「お生憎様」と言ったような………そんな言葉、屁でもないといった表情だった。
「ご心配して頂いて、
ありがとうございます先輩。
…意味がないかどうかは、私が決めますので」
そう言い切って少女はフンと鼻を鳴らし、スカートをなびかせた。「デュース行こう」と裾をひっぱる。同じく腕の中の相棒の魔獣もフンと鼻を鳴らした。
傷ついた顔一つ見せない少女に、
思いのほか腹が立ち、
男は胸の底で燃やしていた黒い感情が爆発した。