第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
いざ鏡の目の前という所で、
突如現れた二つの影が行く手を阻む。
一つの影は被っていた帽子を取り、大げさなボディランゲージでうやうやしく頭(こうべ)を垂れた。その男は詩をスラスラと詠むように滑らかに語り出す。
「ボン・ジュール。
麗しのヴィル、トリックスター。
星の綺麗な良い夜だね」
もう一つの影は女の子のようにか弱そうなシルエット。オドオドと姿を見せたがその声は男性の物だった。
「…ヴィルサン、ユウサン」
悩ましげに眉を寄せた美少年は一年生のエペル、その隣にはポムフィオーレの副寮長ルークがいた。
お馴染みの顔にヴィルは隠す様子もなく、ハァーと溜息を吐く。貴重な癒しの時間が台無しだ。
「それで…。
何の用かしらルーク、エペル。
お邪魔虫はさっさと退散しなさい」
「すまない毒の君(ロア・ドゥ・ポアゾン)。
エペル君がどうしてもユウくんに話したい事があるというからね…。
愛のために戦う彼は美しい!トレビアン!」
「ルークサンッ!
余計なことまで話さなくていいから…!」
絶望で染まった顔を見せた彼だが、
覚悟を決めたように突如ユウの手をぎゅっと握った。
緊張しているのかかすかに震え、
エペルの頬は桃色に染まっている。
「ユウサン」
「どうしたの?エペル」
いつもと変わらず優しく微笑んでくれるユウを見て、少し安心したようにエペルは息を吸う。だが、ヴィルを睨みつけるように見る瞳はいつもより鋭く野生的だ。
ルークはそんな一部始終を逃さないとばかりに視界に収め、「美しい…美しい」とハンカチで目元をぬぐい始めた。
…いや、助けろよ。
実はこの二人は今夜、ヴィルがユウへ愛の告白をすると思ってる。
あの即決即断のヴィルが、花を選ぶのに小一も時間かけ、「あ゛ー!もー嫌゛ァッー!!」とヒステリックに叫びながらメールを何度も打ち直している姿を一番近くで見てきたからだ。
(ヴィルさんも人の子だったんだ…。でもあの調子じゃ一生かかってもユウサンに気持ちを伝えられなそう…)
当初はエペル自身も自分の寮長であるヴィルの行動に驚愕したり、同情したりしてきたが監督生と寄り添って歩く二人を見て胸がズキズキと痛み出した。