第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
「アタシが好きでしてることなんだから、
遠慮する必要なんてないのよ。
この前まで泥付きのジャガイモだったけど、
今では小鳥くらいにはなれたんじゃない?
美も力も一日にして成らず。
その調子で美しくなりなさい」
「はい、ヴィル先輩。ありがとうございます」
十分見違える程綺麗になったと言う輩は増えてきたが、ヴィルはそう思わない。
この国では珍しい漆黒の髪は、磨けばもっと輝くだろうしボディメイクもまだまだ甘い。
食いしん坊の魔獣のせいで食費を削っているかと思えば、そうでもない。ただ単に彼女が小食なのだ。
VDCの合宿先としてオンボロ寮で共に暮らしていた時も、彼女の料理の腕前は一流を知る彼でも内心舌を巻くほどだった。故郷を思い出す、温かい家庭の味。
聞けば幼少の頃から両親のいない家庭で、自らが料理を担当していたと知り「今も昔も苦労しているのね…」と努力を絶やさない小さな体を思いっきり甘やかしたくなった。
ヴィルが彼女を甘やかす癖はその頃から、ずっとだ。
「エコひいき反対ーッ!」とハート型の新ジャガが毎回叫ぶが、芯の強さでも可愛さでもユウの方がパワーがあるのだ。仕方ない。
自分の思うままに振る舞いたいのであれば、強く美しくあれ。自身の信条であり、ポムフィオーレ寮の教訓であり、一年生のエペルにも言い聞かせている言葉を有言実行しているまでだ。
この子は磨けばきっと
そこいらの野菜達よりも光り輝くだろう。
まるで、ダイヤの原石のよう。
どんな輝く宝石になるのか、その日が楽しみで彼等(ヴィルやクルーウェル達)は彼女を研磨している節がある。審美眼が確かな人物であれば、ユウはこれ以上ないくらい価値のある原石だった。
(今日は肉を中心したメニューを増やしましょうか…)
美味しいものを口いっぱい頬張るリスのようなユウは、とても可愛い。そう思い、ついついこの子だけには甘やかしてしまう。これには普段の厳しく指導されているエペルも唖然としてエースの言葉に激しくうなずいた。
気になる相手に優しくなるのは、世界一美しくてもどれだけ名が売れたスーパーモデルでも、ただの男として変わらなかった。
◆
ヴィルとユウが和気藹々とモストロ・ラウンジへ向かう。グリムは早く飯が食べたいと叫びながら先頭を走った。