第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
ー鏡の間
ヴィルのエスコートの元、鏡の間まで来たユウ。オンボロ寮を出た時はどこか胸を張っていたのに、エスコート慣れしていないのか挙動不審だ。
ヴィルはそこが
とんでもなく新鮮で可愛いと思ってしまう。
それに気づかずユウは、一人嬉しそうに笑った。
「VDCが終わって、NRCトライブのみんなも
オンボロ寮から元の寮に戻っちゃったので
ちょっと寂しい…って
後ろ向きな気持ちだったんです。
だから、ヴィル先輩に誘ってもらえて
とっても嬉しいです!」
…可愛い。
プライドばかり高いモデルや、計算で近づいてくる外部の人間と違って、どこかマヌケな姿だが芯はしっかりとしている彼女に好感が持てる。
(…このままどこかに攫ってしまおうかしら)
ぎこちなく震えるこの愛らしい小動物が、悪の巣穴(NRC)でこの先、生き残っていけるか常々心配になってしまう。来年には自分は四年生になり、実習と仕事のスケジュールで忙殺される事は目に見えている。
少しの年の差で、ユウと過ごす時間が後輩より短いと思うと、なんとも口惜しい。
持ち前の演技力で表情にはおくびにも出ないヴィルだが、視線は彼女に釘付けだった。
「…喜んでもらえて何よりだわ。
それよりも、やっぱりその制服大きすぎない?
ちゃんと学園長には話したの?
自分を表現することができるのは、自分だけなんだから。
決められた制服だからって甘んじてはダメよ」
だが、口では素直じゃない言葉ばかり出てくる。
彼の素直になれない性格が、結果として内面が魅力的で、外見も美しく磨かれていく構図を生むのだった。
「さすがヴィル先輩…ばれちゃった。
学園長には、グリムと合わせて生活費を
もらってる分なかなか言い出しずらくって。
自分で裁縫してみたんですけど、
やっぱり変ですか?」
「自分でっ…?!
…そうね。アンタの境遇を思えばそうかもね。
しょうがないわ。
アタシがなんとかしてあげるから、
今度ポムフィオーレに来なさい。
午後の時間ならグリムにもお茶くらい出すわ」
「本当か?!
オイ、子分!明日にもでも行くんだゾ!」
「こらグリム、失礼でしょ!
でも先輩にもらってばかりで申し訳ないです…」