第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
メイクもいまだ慣れてないのか、
完璧なのはヘアケアくらい。
それでも…
垢ぬけない真っ白な彼女を
真っ赤な林檎のように染めてあげたい。
誰にも汚されていない聖域のようなユウを、自分だけの物として独占したいと腹の底で思ってしまったのだ。
ヴィルにとってそれが
友情なのか愛情なのか未だに分かっていない。
だが、いつか…
少女が女性として羽ばたいたら
アタシの手で、この小さい唇に
毒林檎のような口紅を引いてあげよう。
きっとこの真っ白なキャンパスにはよく映えるだろうから。
無意識にでもそう思ったからこそ、
マーガレットではなく薔薇を購入していた。
しかし、今回は残念ながら本当のデートではなく改めて彼女に謝罪をしたいと思ったのだ。魔法も使えない、妹のように可愛がっていた少女を自身のオーバーブロットに巻き込んでしまうなんて…。
当時の記憶はあまりないが、怖い思いを植え付けてしまったら申し訳ないとヴィルは思っていた。
(ユウ当人はこれっぽっちも気にしていない)
マア、下心として二人っきりで
彼女とお話したいという気持ちもあったけど。
「さあ、行きましょうか」
「喜んで」
花束を見て「ンげーっ」と舌を出す魔獣を無視して、ユウははにかみながらヴィルがエスコートしてくれる手を取った。
この学園は歌を歌ったり、女性を褒め称えることを”キザなこと”として、見かけると砂糖を吐き出すように舌を出のだ。
エースがよくやる顔だと、内心笑った。
でも乙女はそれで喜んでしまうんだから、しょうがない。だって紳士的で優しい男性の方が、女性は安心するもの。
それに本当はみんなが歌が好きな事や、女性と仲良くしたい天邪鬼だって知ってるんだから。(よくレオナは鼻歌歌ってるし、それを聞いてラギーやジャックの尻尾もよく揺れる)
ユウはエスコートしてくれるヴィルのおかげで、少し大人な女性になった気分で、返事を返した。
踏み出した足元は、ガラスの靴ではなく
いつも使い古しているローファーだったが。