第14章 Crimson apple(真っ赤な林檎はいかが?)
チリーンーとチャイムが鳴る音がオンボロ寮に響く。今はボロボロだが西洋の建物らしく、チャイムは大きな鈴のような音だ。
「はあい」
汚れがつかないようブラッシングした制服を着こみ、VDCで泊まった際彼が置いていった沢山のヘアケアの中から一つ選んで、その香りを身に纏った。
髪がゆれる度に
ほんのり香るリリー(百合)の匂い。
獣人族など嗅覚が人間の数倍良い種族の為に、臭くならない程度に種族ごとで匂いの強度が変わるらしい。香水にも一種の魔法がかけられているようで、この世界のメイクも夢みたいだ。おかげで、鼻がいいグリムの前でも楽しむことが出来る。
そして今日のグリムは、
ポムフィオーレにちなんで
アメジスト色のリボンをつけてあげた。
お出かけの準備はバッチリだ。
満を持して玄関を開けると、
視界が真っ赤に染まった。
「あらやだ。
デートだと思ってたのはアタシだけ?」
そこには、
薔薇の花束を持った美しい青年が立っていた。
「ヴィル先輩っ!、わあっ」
ユウは混乱して頭が真っ白になり何を言っていいか分からなかった。しかし、彼は本音か冗談か分からない顔をしてユウの小さな手に花束を渡した。
(とっても綺麗…)
その美しさに思わず、うっとりする。
まさかこの世界で薔薇の花束を受け取る日が来るとは。しかも、見かけだけなら王子様のような美しい青年に。
兄以外の異性からこんなにロマンティックな演出をされたことがないユウは、薔薇の花に負けじと顔が真っ赤に染まった。
「贈った本数にはきちんと意味があるのよ。
今日は10本。どうぞ、受け取って」
「……嬉しいです。
ありがとうございます、ヴィル先輩」
『あなたは全てが完璧』
それは、オーバーブロット事件から今日を迎える日まで、彼女に送る花を悩みに悩んで選んだ花束だった。世界的スーパーモデルとはいえ、ヴィルだって高校生だ。仕事でもないのに一人の女性に花を贈るなんて慣れているわけない。
嫉妬する程白く雪のような肌に真っ黒な黒髪。純白のマーガレットか真紅の薔薇か小一時間バカみたい悩んだ。夕食の誘いだって三回目の正直でようやくこれだ。
こんな花束一つで喜ぶ彼女は、
どちらかというとマーガレットのような
純粋無垢な花が似合っただろう。