第13章 Changing distance(変わる距離)
「アズールアズールアズール」
「うるさっ」
「僕まだ病気が治っていないみたいです…」
「は?そんな馬鹿な。
熱は、体の痺れはありますか?」
「いえ。……ですがずっと胸が痛いんです」
「なら過労でしょう?
僕の作った魔法薬が効かないはずがない」
「そうでしょうか。人には誰しも間違いというものがありますし…。むしろ過労で倒れそうなのはアズールの方かと」
「なんなんだ、最近のお前は!
ヤケに突っかかってきたかと思えば…。
僕の!作った調合は完 璧 で す!
不安なら他をあたりなさい」
「それもそうですね。
セカンドオピニオンという言葉もありますし」
「本当にお前は一言余計だな…」
ズキッ!
(まただ…っ)
ジェイドの視界の先には、オンボロ寮の監督生・ユウがハーツラビュル寮のいつもの二人組と話している姿があった。
後ろ姿しか見えないが、彼女の艶髪が黒々と輝いて、夜空を飾る星達のように光っている。
パチパチと何度まばたきをしても、それは変わらない。
彼女はこんなにも眩しかったか…?
一点を凝視して何度も目をこする腹心に、
アズールは本気で心配した。
マジカメを開いて
学園に近い人魚専用の病院でも探してやろうと思ったが、
最近フロイドよりもポンコツに成り下がったウツボの対価なんて、たかがしれてるか…と思い直し、ホットペッパービューティーで美容院の予約を入れた。
ギィ…と人魚が、自分の番を奪おうとするオス相手に鳴らす幻聴を聴きながら。
◆ー学園 外廊下
「ユウ!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはリドル寮長がいた。
普段学年もクラスも違えば会う機会なんて早々ない人物だが、よくお茶会に誘ってもらうなごりで二年生の中では割と遭遇率が高い。
「リドル先輩!こんにちは。
どうかしましたか?」
「やあ。近頃お茶会にも顔を出さないから心配していたよ。
どこか調子が悪いのかい?
僕に隠すのはおよしよ」
「あっ…いえ。そんなことは」
正直ジェイド先輩と会いたくなくて、
出来るだけ外出を控えていた。
看病と称して彼の部屋で過ごした日から、
なんとなく顔を合わせずらい…。