第12章 Master(先生はジェイド先輩)
嫌な汗が背中を伝うが、よく見ると
ジェイドの瞳に三ツ星が輝いている。
「……お、美味しい!」
かすかに声が揺れて聞こえたが、目がとろんと甘く垂れた。美味しい食べ物は、どんな獰猛な猛獣にも通用するらしい。
ユウは、再びレンゲで掬ってあーんと差し出すと、次は遠慮なくその大きな口が開いた。
バクっと食い気味に、勢い良く完食する。
あっという間に、ぺろりと平らげしてしまった皿を見て、驚きと嬉しさでなんとも言えない表情になってしまった。
「……ごちそう様でした。
ユウさんの手料理、大変美味しかったですっ!
キノコを使った素晴らしいレシピ!
宜しければ、モストロ・ラウンジの新メニューとして紹介したいので後ほどレシピなどお教え頂きたいのですが…」
普段とジェイドと比べてると、大変興奮気味に手を握られる。いや、握りつぶされる。「う゛っ…」と痛みで声を上げたが、キノコの話題になると良くも悪くも彼のブレーキはブっ壊れてしまうので、ユウはたしなめるように静かな声でその名を呼んだ。
「ジェイド先輩。キノコ料理のレシピは後日お教えしますから…。今は薬を飲んで寝ましょうね」
興奮し続ける彼の肩をベットに押し倒し、すぐさまコップに水を入れ薬を用意する。まだまだ言い足りない様子の彼だが、ユウがその肩に手を置くと心底残念そうな目で見つめられた。
「…その薬、とっても苦くて。
正直飲みたくないです…」
普段の彼ならこんな失態は犯さないのだが、予想外の彼女の乱入によって心が珍しく隙を作った言葉だった。フロイドがいれば「ジェイド、ガキみてぇ~っ」と馬鹿にしただろう。別にユウの前で子供っぽく甘えたいワケでもなんでもなく、愚痴の一つを吐き出したつもりだった。
しかし、普段キッチンで気分屋のフロイドを相手にしてきただけあって、ピコンとユウの中のレーダーが反応した。
「ジェイド先輩は普段しっかりしてるのに、
病気の時は別人みたいですね。
可愛いっ」
(…可愛いっ?!)
本心ではカッコいいが望ましいが、彼女からの一言は銛で胸を突かれるほどの衝撃が走った。普段自分に対して警戒心を緩めない彼女から、裏表ないその笑顔を向けられているかと思うと、急に動機が激しくなってくる。